
自然エネルギーは、政策によって普及のための前提条件を整えることで多様なステークホルダーが市場に参入し、導入が加速します。目標値の設定、固定価格買取制度をはじめとする規制、税制措置、情報キャンペーンといったさまざまな政策手法を組み合わせ、国・地方自治体・地域コミュニティのそれぞれで取り組みを進めていくことが必要です。ISEPは、国内外の研究者、実務家と共に自然エネルギー政策の研究・提言を進めています。
GX推進政策に対する提言
GX推進政策に対する提言
特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所
2023年2月28日
「GX実現に向けた基本方針」「GX推進法案」(2月10日閣議決定)及び「GX束ね法案」(2月28日閣議決定)では、エネルギー安定供給の確保と脱炭素化に向けて徹底した省エネと再生可能エネルギーへの転換だけではなく、原発の再稼働やリプレースを進めようとしている。しかし、原発はエネルギー安定供給の確保、エネルギー自給率の向上や気候変動対策にならず、本来のGX実現のためには全力をあげて地産地消・地域主導型を中心とする再生可能エネルギー100%に取り組むべきである。そこで、以下、6項目のGX推進政策に対する提言をする。
【提言1】全ての原発は再稼働せずに速やかに廃止せよ
現実を直視すれば、原発に固執する合理的な理由は見当たらない。むしろ地震や津波、テロ対策への原発安全性は不充分であり、住民避難も現実的ではなく、核廃棄物の行方すら見通しの立たない原発は、全て再稼働せずに速やかに廃止すべきである。
ロシアによるウクライナ侵攻とエネルギー危機、そして国内の電力不足騒ぎなどに乗じて、安易な原発再稼働、運転期間延長や次世代革新炉の開発・建設などを打ち出した岸田政権の方針は、フクシマの教訓を無視した暴挙であり直ちに撤回すべきである。
ウクライナでは、ロシアに占拠されたザボリージャ原発が砲撃・断線などで、日本が福島原発事故で経験したメルトダウンの恐れに世界が震撼として注視しているなか、原発人災事故当事者の日本が事故の総括無く原発再稼働や新増設に前のめりになる姿勢は、「欺瞞」というほかない。
【提言2】原発は電力不足には役立たない
電力不足は電力最大需要(ピーク)時の需給の過不足の問題であり、ベースロードの原発を再稼働しても役立たない。
そもそも、原発は日本の電力不足には役立たない。電力不足は電力最大需要(ピーク)時の需給の過不足の問題であり、ベースロードの原発を再稼働しても役立たない。1年間のうち0.5%・約50時間の需要ピークを下げるかシフトするだけで、約10%(東京電力管内で約500万kW)も最大需要は下がる。これに最も有効なのは、節電と蓄電池であり、国はすでに導入を始めている需要側応答(デマンド・リスポンス)や需要側の蓄電池の拡大を急ぐべきである。
【提言3】原発は気候変動対策にも役立たない
気候変動対策は、中長期的、そして恒久的な対策が求められており、省エネと同時に、再生可能エネルギーへの転換が王道である。
日本の原発はすでに相当に老朽化しており、安全性を担保出来ず、今後は大量廃炉時代に直面する。一方で、原発の新増設をしようにも、欧米などの現実を見ても明らかなとおり、高コスト化と建設期間の遅延に次ぐ遅延で、ほとんど当てにならない。さらに、原発自体が気候変動に対して脆弱である。高温化・暴風雨・洪水の瓦礫などで、現在のフランスで起きているように、予期しない長期間の停止を余儀なくされる。
【提言4】次世代革新炉は始める前に終わっている
次世代革新炉は、既存の大型原発よりもはるかに高いコストからの出発点となり、量産効果によるコストダウンは望めず、原発に不可分の核のゴミも発生するなど、即刻開発を中止すべきである。
国内外が小型原発(SMR)や次世代革新炉に注目しているが「根拠のない熱狂」である。一応実用化されている既存の大型原発さえ、英・仏・フィンランドなどで高コストと建設遅延で苦しんでいるのに対して、次世代革新炉は、はるかに高いコストからの出発点となる。炉型もバラバラで需要もほとんどないため、量産効果によるコストダウンは望めない。原発に不可分の核のゴミも発生する。明らかに無駄な開発投資であり、次世代革新炉の開発は即刻中止して、開発や建設に取り組むべきではない。
【提言5】「再エネ100%が可能」が世界の科学者のコンセンサスである
「再エネ100%が可能」が世界の科学者のコンセンサスであり、もはや原発など新規開発はおろか既存の原発再稼働も無用である。
2022年7月に、2050年までに世界全体を再生可能エネルギー100%とすることが経済合理的に可能であるという科学者によるコンセンサス[1]が報告されている[2]。人類にとって、無尽蔵かつ膨大にある太陽エネルギーで、温室効果ガスも放射能も出さない、地産地消も国産も可能であるならば、もはや原発など新規開発はおろか既存の原発再稼働も無用である。
【提言6】全力をあげて地産地消・地域主導型を中心とする再生可能エネルギー100%に取り組むべき
地域の自立や気候危機への対応として、国は、全力をあげて地産地消・地域主導型を中心とする再生可能エネルギー100%を目指すべきである。
福島を中心に、未だに何万人もの方々が故郷を追われ、原発事故処理や汚染土の処理などもまったくメドが立たず、福島第一原発事故はまったく終わっていない。エネルギーを国や事業者に任せてきた結果、この世界史的な事故を起こさせてしまった反省に立ち、地域の自立や気候危機への対応としても、地産地消・地域主導型の再エネに自ら取り組むことこそが3.11後の私たち国民の責務であると考える。国は、全力をあげて地産地消・地域主導型を中心とする再生可能エネルギー100%を目指すべきである。
そのため、以下の具体的な施策を提言する。
- 再エネ100%の国家目標化と政策総点検
- 国として再エネ100%を国家目標に据えつつ、それを実現するための支援政策を総点検して導入する。
- 建築物への太陽光発電の義務付けと支援
- 東京都や川崎市が導入予定の新築住宅への太陽光発電設置義務付けに加えて、既設の住宅や建築物への太陽光発電設置の誘導策と支援を行う。
- 入札から「ご当地電力」を除外
- 入札導入後に市場が崩壊したことを踏まえ、「ご当地電力要件」を満たす太陽光発電や風力発電は入札から外し優遇固定価格(前年落札最高額+2円/kW時程度)とする。
- 地域活用要件の見直し
- 低圧太陽光の30%自家消費を定めた地域活用要件の導入後に市場が崩壊したことを踏まえ、自家消費要件から「ご当地電力要件」に切り替え、優遇固定価格(前年落札最高額+2円/kW時程度)とする。
図: 入札と地域活用要件で太陽光市場崩壊
- 営農型太陽光発電の技術基準化
- 農地の再エネ利用は非常に大きなポテンシャルを持っているものの、現状の日本では営農型太陽光発電は、一時農転手続きと農業の収量要件が厳しいハードルになっていることを踏まえて、収量要件を農業設備としての設備基準に変更すると同時に、一時農転不要とし、上記固定価格に加えて、技術プレミアム価格(+2円/kW時程度)を加える。
以上
【参考資料】
”On the History and Future of 100% Renewable Energy Systems Research”
「再生可能エネルギー100%研究の歴史と未来」日本語翻訳
[1]フィンランド LUT大学プレスリリース 2022年8月9日”Researchers agree: The world can reach a 100% renewable energy system by or before 2050” 「世界は2050年までに100%再生可能エネルギーシステムに到達することができることに世界の科学者は同意した。」https://www.lut.fi/en/news/researchers-agree-world-can-reach-100-renewable-energy-system-2050
[2] Christian Breyer 教授ほか 15機関・23名の研究者 ”On the History and Future of 100% Renewable Energy Systems Research”「再生可能エネルギー100%研究の歴史と未来」IEEE Access, Vol.10, 2022年7月25日 https://kr.isep.or.jp/report/on-the-history-and-future-of-100-percent-renewable-energy-systems-research/
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