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自然エネルギーは、政策によって普及のための前提条件を整えることで多様なステークホルダーが市場に参入し、導入が加速します。目標値の設定、固定価格買取制度をはじめとする規制、税制措置、情報キャンペーンといったさまざまな政策手法を組み合わせ、国・地方自治体・地域コミュニティのそれぞれで取り組みを進めていくことが必要です。ISEPは、国内外の研究者、実務家と共に自然エネルギー政策の研究・提言を進めています。

REN21「自然エネルギー世界白書2024」世界概観編(Global Overview)を公表

REN21自然エネルギー世界白書2024」世界概観編(Global Overview)を公表

国際的な自然エネルギー政策ネットワークREN21(「21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク」本部:フランス・パリ)は、「自然エネルギー世界白書2024」世界概観編(Global Overview)を2024年4月4日に公表しました。REN21は、科学者、学術機関、政府、NGO、産業団体などの自然エネルギーの専門家による唯一の国際的なコミュニティです。設立直後の2005年から毎年、「自然エネルギー世界白書」(GSR:Global Status Report)を発行しており、多様な分野の専門家からなる世界的なマルチステークホルダーコミュニティを基盤として、広範囲な情報源から収集した公式および非公式ののデータを統合して公表してきており、今年で19年目になります。

昨年(2023年)から、自然エネルギー世界白書の構成が大きく変わり、以下の5つのレポート(モジュール)に分割して2024年4月から数ヶ月かけて順次、公表されます。

  • 「世界概観編」”Global Overview” 2024年4月4日公表 [ダウンロード]
  • 「エネルギー需要編」”Energy Demand”
  • 「エネルギー供給編」”Energy Supply”
  • 「システムとインフラ編」”Energy Systems & Infrastructure”
  • 「経済的・社会的価値創造編」”Economic & Social Value Creation”

プレスリリース:REN21(パリ、フランス) 2024年4月4日

自然エネルギーがエネルギー需要の増加に追いつけず、温室効果ガス排出量の増加につながる –

化石燃料から自然エネルギーへの転換を妨げているのは、行動、資金、インフラの欠如である。

  • 野心的な目標や、公平かつ公正なエネルギー転換を達成するためには、政策、許認可、資金などの自然エネルギーの導入を可能とする要因に緊急に焦点を当てる必要がある。
  • エネルギー需要の増加に対して、自然エネルギーの増加で十分に賄えないため、2023年のエネルギー由来の二酸化炭素排出量は1.1%増加した。
  • 2023年に増加した自然エネルギー発電設備容量は473GWで過去最大となった。しかし、世界的な気候変動への対策と持続可能な開発の公約を達成するために必要な年間1,000GWの導入量には及ばない。
  • 自然エネルギー・プロジェクトの資本コストは、先進国の4%未満から発展途上国の10%以上まで、世界的にますます不平等になっている。

地政学的な動きと世界的なコミットメントへの政策的な対応により、2023 年の自然エネルギーの導入と利用が、特に電力部門で加速した。2023年国連気候変動会議(COP28)において、2030 年までに自然エネルギー設備容量を 3 倍にし、エネルギー効率を年間 2 倍に改善するという歴史的な決定がなされたことで、自然エネルギーに対する野心がさらに高まり、その機運が高まった。発展途上国における自然エネルギーに対するリーダーシップと意欲の高まりは明らかであるが、資金面は依然として大きな障害となっている。全エネルギーに占める自然エネルギーは増えているものの、さまざまな理由から、必要とされるペースで石炭・石油・天然ガスにとって代わるには至っていない。エネルギー需要全体が急速に増加していること、途上国では自然エネルギー・プロジェクトのコストが大幅に高いこと、許認可やインフラ、送電網への接続に大きなボトルネックが残っていることなどである。

これは、本日発表された「自然エネルギー世界白書2024GSR2024」の「世界概観編(Global Overview)」 の主なメッセージである。本年中に発表されるシリーズの最初のモジュールとして、世界概観編は、より広範なエネルギーシステムにおける自然エネルギーの全体像と、気候変動、経済発展、地政学的状況といった世界的な課題との関連において、自然エネルギーの状況を提供するものである。REN21 は 2005 年以来、再エネルギーの目標、政策、進捗状況を追跡してきた。昨年、REN21 は、需要、供給、システムとインフラ、経済的・社会的価値の創造を含むエネルギーシステムの様々な側面の理解を深めるために、GSR を個別のモジュールとしてリリースし始めた。

「世界はかつてないほど多くの化石燃料を燃やしており、世界のエネルギー由来排出量は増加しています。エネルギー需要の増加に自然エネルギーの増加が追いついていません。このことは気候危機を悪化させ、エネルギー転換を頓挫させている。私たちは、自然エネルギーがもたらす経済的機会を十分に活用することで、強靭で包括的な社会を構築する機会を逸しています。」とREN21事務局長のRana Adibと述べた。「私たちはまた、消費するエネルギーを最大限に活用するために、エネルギー効率を急速に向上させなければなりません」と付け加えた。

自然エネルギーの利用は2012年から2022年の間に58%急増したが、エネルギー需要全体 も16%増加した。需要の増加は主に石炭、石油、化石ガスによって賄われており、2012年から2022年にかけてのエネルギー需要増加の約65%を石炭、石油、化石ガスが賄っている。

エネルギー不安とインフレを抑制する政策対応は、自然エネルギーの状況を再構築し、自然エネルギーへの投資とプロジェクトを後押しする上で効果的であることが証明されている。米国のインフレ抑制法とEUのRePowerEU計画は、サプライチェーンを多様化し、一握りの製造国への依存を減らし、エネルギー自給率を高めるための第一歩を踏み出した。

COP28は自然エネルギーにとって歴史的な勝利であり、かつてない勢いを生み出し、より高い野心を推進した。発展途上国もその歩みを強めている。例えば、ラテンアメリカ・カリブ海地域の自然エネルギー・ハブは、同地域の総発電量に占める自然エネルギーの割合について、2030年の目標を70%から80%に引き上げた。同地域はまた、総エネルギー供給量の36%を自然エネルギーで賄うことを目指している。

「COP28の決定は大きな勝利だったが、電力システムだけでなく、エネルギーシステム全体を対象としていれば、さらに大きなものになっただろう。また、その成功の基礎となる資金を強調する機会も逃した。気候行動ネットワーク(CAN)インターナショナルのシニアオフィサーであるJanet Milongoは、「公正で公平、強靭で豊かな社会と経済を創造するためには、自然エネルギーへの完全なシステム全体のシフトと十分な資金調達が極めて重要かつ緊急に必要です」と述べた。

GSR 2024の世界概観編によると、改善されたとはいえ、現在の自然エネルギー投資と必要な自然エネルギー投資額のギャップは依然として大きい。再生可能な電力と燃料への世界投資は2023年に8.1%増加し、約6,230億米ドルに達した。しかし、ブルームバーグNEFと国際自然エネルギー機関は、COP28と2015年のパリ協定で設定された目標を達成するためには、年間1兆3,000億~1兆3,500億米ドルが必要であると見積もっている。

世界の金融情勢は、開発途上国を著しく不利な立場に追いやり続けており、自然エネルギープロジェクトの資本コストは、先進国の4%未満に対し、開発途上国は10%にも達している。このような状況は、化石燃料から脱却し、自然エネルギーを基盤とした経済を確立しようとする開発途上国の努力を支援するどころか、不平等を悪化させ、これらの国々が自然エネルギーがもたらす大きな機会からの恩恵を得ることを妨げている。

本レポートは、世界の再生可能エネルギー・プロジェクトのパイプラインを阻害している構造的な課題を浮彫りにしている。自然エネルギーの利用は2012年から2022年の間に58%急増したが、エネルギー需要全体 造も16%増題加をした。世界全体では、2023年時点で推定3,000GWの自然エネルギー・プロジェクトが、不十分な送電網インフラ、不十分な資金調達、許認可の遅れなどの理由で未開発のままである。これらは、エネルギー転換を頓挫させる危険性のある大きなボトルネックである。

「送電網はあまりにも長い間無視されてきた。自然エネルギーの統合を可能にする送電網の役割は、どの国でも認められる必要があります。送電網導入のボトルネックを取り除く必要があるのです。自然と調和し、人々の支持を得ながら送電網を構築することは完全に可能です。私たち自然エネルギー・グリッド・イニシアチブ(RGI)は、活動を通じてこのことを常に実証しています」と、RGI最高経営責任者のAntonella Battagliniは述べた。

「自然エネルギーは、具体的な社会的・経済的利益を引き出す迅速なエネルギー供給のための最善の策であり、この技術への支援をさらに加速する必要がある。しかし、金融アクセスの不足と高い資本のため発展途上国の何百万人の人々が経済的社会的な発展から取り残されています。COP28の決定だけでは十分ではなく、私たちの行動にかかっています。私たちは、自然エネルギーを中心に据えたエネルギー計画を再構築しなければなりません。私たちは、より野心的に、より強力な政策を構築し、財政投資、技術、技能の公平な分配を確保し、人々を第一に考えた迅速な世界的エネルギー転換を実現しなければなりません」とRana Adibは述べた。

REN21 自然エネルギー世界白書2024(Renewables 2024 GSR Collection )について

REN21 は、すべての自然エネルギー分野にわたる科学、学術、政府、非政府組織、産業界からの自然エネルギー関係者の唯一の国際的なコミュニティです。このコミュニティは、データと報告活動の中心にあり、自然エネルギー世界白書2024世界概観編(GSR 2024 Global Overview) を含む全ての知識活動は、REN21 が中立的なデータと知識の仲介者として世界的に認知されることを可能にした独自の報告プロセスに従っています。

2005 年に 自然エネルギー世界白書(GSR) が初めて発表されて以来、REN21 は自然エネルギーの未来を形作る現在進行中の開発と新たなトレンドにスポットライトを当てるために、何千人もの貢献者と協力してきました。この年次報告書の作成は、データを提供し、各章をレビューし、報告書の内容を共同執筆する何百人もの専門家とボランティアの共同作業です。

(日本語翻訳:特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所 ISEP )


環境エネルギー政策研究所(ISEP)は、これまで本白書の日本関連データの取りまとめを行ったり、飯田哲也ISEP所長がREN21の運営委員を務め、この「自然エネルギー世界白書」の2005年の発行から中心的な役割を担ってきました。2013年1月にはREN21と共同で「世界自然エネルギー未来白書」を編纂し、発行しています。「自然エネルギー世界白書」特集ページからもダウンロードできます。ISEPによる日本語翻訳版もあります(一部)。

日本国内の自然エネルギー関連の情報についてはISEPが2010年から毎年発行していた「自然エネルギー白書」および「自然エネルギー・データ集」をご覧ください。

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