トピックス 2

自然エネルギーと社会的合意形成

前年度に続き、2017年度も自然エネルギーと社会的合意をめぐって、より議論の声が高まっている。従来の風力発電、太陽光発電の地域トラブルに加えて輸入バイオマスによるバイオマス発電についても持続可能性の点からの懸念が高まっている。

メガソーラーの地域トラブルについては「自然エネルギー白書2016」でも示した通り、メガソーラー設置に伴うトラブルが増加している。2017年4月からの新FIT 法により法令及び条例の遵守が義務付けられ、条例により手続きや周辺地域の同意について定めることで乱開発に歯止めをかける効果が得られるようになった。つまり、改正FIT 法により自治体は事業者の適切な開発を誘導することが可能となっており、自治体の責務は高まっている。また事業別のガイドラインにおいて周辺地域住民との適切なコミュニケーションが推奨されているが、法的拘束力を伴うものではないため、事業者の姿勢に負うところが大きい。また発電事業者の情報が自治体のみならず一般に公開されるようになり[1]、今後事業者名、代表者名、設備区分、出力、所在地が明らかになるため、トラブルが発生した際に周辺住民がどこに連絡するべきか不明という状況は大幅に減ると考えられる。

2016年3月に発表した「研究報告 メガソーラー開発に伴うトラブル事例と制度的対応策について」ではメガソーラーを中心に50カ所のトラブル事例をもとに状況を整理した[2]。その後、2017年3月までのトラブル事例の収集をまとめるとトラブル事例は64カ所に増加している(図1.35)。

図1.35 2017年3月までの太陽光開発に伴うトラブル事例|出所:ISEP調べ

長野県内では、周辺住民の反対が続いている89MWの計画と、撤退を決断した24MWの事例がある。どちらも元々の土地は共有地であり、土地を所有する住民と事業者は計画を推進することで合意していたが、周辺住民は水害や土砂災害の懸念などから反対の意思を示していた。

前者の事例では、過去に水害が起こった地域であること、また希少植物が存在する湿地帯自体は保存されるものの周辺の斜面が太陽光で囲まれる予定となることから、下流の住民が継続的な活動を行っている。この事例は長野県が定める環境アセスメントのプロセスに入っている。後者の事例では町の環境保全条例に基づき、開発行為によって影響を受ける周辺地域の同意を得るために、事業者は説明会などを開いていた。その後、周辺自治区の反対決議が出され、2016年末に事業者は撤退を決めた。

メガソーラー開発に伴う地域トラブルの根底には、過去のリゾート開発やゴルフ場開発などでも繰り返されてきた日本の土地開発規制の課題が潜んでいる。例えば農地の開発は農地法により厳しく制限されているが、林地については開発が比較的容易である。こうした状況を放置すれば、10年後にはまた別の開発ブームが起こり、景観や防災面から問題のある土地利用が行われる可能性が高い。

また、全国市区町村再生可能エネルギー政策アンケートの地域トラブルに関する項目の結果を示す。自治体にある再生可能エネルギー施設について地域住民等からの苦情やトラブルについて尋ねた項目では、「過去に発生していたが、現在は発生していない」(14%)、「現在、発生している」(11%)となっている。

2014年の前回調査では前者が7%、後者が3%であったことから、いずれも大幅に増えている。さらに「発生している、あるいは今後発生が懸念される苦情やトラブルは、具体的にはどのような内容ですか」という項目の回答(複数回答)を図1.36に示す。

図1.36 発生中または今後懸念される苦情やトラブル|出所:ISEP調べ

多い順に景観、光害、騒音、土砂災害、住環境の悪化、低周波振動、敷地内の雑草の管理となっており、その多くが太陽光発電に関係していると考えられる。景観は眺望の良い地点での大規模開発、光害は太陽光パネルの反射、騒音はパワーコンディショナーの音、土砂災害は山林の開発、住環境の悪化は住宅地などでの小規模開発、敷地内の雑草の管理はメンテナンスが行き届いていない開発、といった具合である。ただし、景観については風力発電への懸念があるように、他の自然エネルギーへの懸念が含まれる項目もあるが、自由回答の記述とメディアでの掲載状況を合わせて検討すると懸念の多くが太陽光発電に関係していると考えられる。

(ISEP 山下紀明)


[1] 再生可能エネルギー事業計画認定情報公表用ウェブサイト2017 年9 月15 日時点 – www.fit-portal.go.jp/PublicInfo

[2] ISEP「メガソーラー開発に伴うトラブル事例と制度的対応策について