1.5 電力系統への接続問題

電力系統の空容量ゼロ問題

2016年5月末、東北電力は北東北3県(青森、岩手、秋田)及び宮城県気仙沼地区の東北北部エリアで、系統連系に係る連系可能量がゼロとなったことを公表した。これにより、東北北部エリアにおける自然エネルギーの新規の連系接続が実質的に不可能となった。

図1.32 東北北部エリアの基幹系統の空容量の変遷|出所:東北電力ホームページ

いわゆる「東北電力ショック」は、北東北で事業を計画する自然エネルギー事業者を中心に大きな衝撃を与えた。東北電力は更なる系統連系の拡大には系統増強が必要とのスタンスを示しており、電源案件募集プロセス等を通じて、系統増強が行われることとされている。しかし、東北電力が想定した280万kWの募集要領に対して、1,500万kW 以上の申込みがあり、想定潮流の合理化により連系可能量を450万kW程度まで増やすことが可能である。

他方で、東北北部エリアの電源接続案件募集プロセスは、長期の工期を要する大規模なものになることが見込まれる。そのため、東北電力は工事期間中においても連系可能となる当面の系統運用の検討が必要との考えを示し、当面の暫定的な措置で新規の連系接続を認めることとなっている。

こうした、自然エネルギーの電力系統への接続に際して、各地域の系統制約により空容量がゼロになる「空容量ゼロ問題」は東北電力管内に留まらず、全国各地で多発している。しかしながら、経済産業省はまだ実態の解明と解決に向けた調査には乗り出しておらず、一般送配電事業者によるデータの公表はまだ不十分であり、会社間で公表の度合いに差が見られる。

そもそも、系統の空容量は系統の全体の容量から想定潮流を差し引いたものであるが、一般送配電事業者は通常考えられる条件で最も負荷がかかる状態を想定潮流としている。東北電力に当てはめれば原子力発電の再稼働はされておらず、少なくともその分の負荷がかかっていないと考えられ、東北電力の基幹系統の「実際の利用率」は低いと見られている。地内基幹送電線運用容量・予想潮流(実績)及び地内基幹潮流実績データを用いて、東北北部エリアの実潮流データに基づく空容量の分析を行った結果、分析対象の基幹系統では、いずれも利用率が20%未満であり、10% 未満のものも見られたと試算している。

この問題の解決のためには、発電所ごとの想定潮流等の情報公開が必要で、系統運用の見直しが不可欠である[1]。電力広域的運営推進機関(OCCTO)において策定された広域系統長期方針では想定潮流の合理化等の取組の方向性が示され、日本版コネクトマネージが検討されている[2]

電力系統の工事費負担金問題

空容量ゼロ問題と同じく系統接続関係で大きな問題となっているのが、発電事業者が一般送配電事業者から過大な系統接続工事費負担金を請求される「工事費負担金問題」である。発電事業者が一般送配電事業者から自然エネルギーの接続の際に系統制約がない場合でも、発電設備費等の事業費を超える連系工事費負担金を請求される、数年にわたる長期間の工事期間を提示されるなどといった状況が表面化してきており、この問題も各地で多発している。2016年3月にOCCTOが基幹系統の一般負担上限額を設定して以降も、目に見えて発電事業者側の負担が減少しているとは言い難い。

この工事費負担金問題の具体例としては、(1)東北電力管内の自然エネルギーの発電事業者が計画した20万kWの風力発電事業に対して、東北電力より事業費の3倍に当たる300億円の連系工事費負担金を請求された事例、(2)中国電力管内の自然エネルギーの発電事業者が行った1,200万kWの太陽光発電事業に対して、中国電力から事業費の2倍以上となる6億円の連系工事費負担金を請求された事例、(3)中国電力管内で地方自治体も参画した400kWの太陽光発電事業に対して中国電力から事業費の約4倍に当たる4億円の連系工事費負担金を請求されて地方自治体の首長が問題を指摘すると70万円まで下がった事例などである。

空容量ゼロ問題及び工事費負担金問題の発生を重く見て、一般社団法人全国ご当地エネルギー協会では、会員団体を対象として「電力系統接続に関する実態調査」を実施した。同調査では、会員団体の事業において、11事業のうち10の事業で、提示された工事費負担金が固定価格買取制度の調達価格の前提として示された平均値や、OCCTOの定める一般負担金の上限額を大きく上回った。また2017年10月3日には経済産業大臣に対して、空容量ゼロ問題および工事費負担金問題の解決に向けた申し入れ書を提出した[3]

工事費負担金問題の解決に向けては、電力広域的運営推進機関による指導・監督や一般送配電事業者による積算根拠の明示が不可欠である。他方で、総論としては、原因者負担(ディープ)から公共的負担(シャロー)への移行が自然エネルギーの普及に向けて不可欠になっている。

(ISEP 道満治彦)


[1]安田陽「送電線に「空容量」は本当にないのか?」京都大学再生可能エネルギー経済学講座コラム、2017年10月2日

[2]電力広域的運営推進機関(OCCTO)広域系統整備委員会

[3]全国ご当地エネルギー協会「全国の「エネルギーの地産地消」推進に向けた送電線利用ルール(空容量ゼロ・工事負担金等)の改善の申入れ」2017年10月3日