5.3 自然エネルギー導入ポテンシャル

5.3.1 概要

日本の再生可能エネルギーの導入ポテンシャル(将来、導入が可能な発電設備の容量)は非常に大きいことが分かっている。例えば、環境省の「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」[1]では、太陽光発電(住宅用以外)、風力発電、地熱発電そして小水力発電について国内全域の導入ポテンシャルを推計している。本調査は、さらに平成23~24年度[2]に調査が継続され、情報の精査やポテンシャルの再推計が実施された。本節では、最新のものである平成24年度の調査結果を基に日本の再生可能エネルギーポテンシャルについて示す。

太陽光発電の導入ポテンシャルは、住宅系建築物(戸建、共同住宅、オフィスビル)が1億8,270万kW、商業系建築物(商業、宿泊)が249万kWと推計されている。この他に、庁舎、学校などの公共系の建築物や、工場などの屋根の上に太陽光パネルを取り付ける他、遊休地や耕作放棄地など様々な未利用の土地が日本全国で活用できることが示されており、これらの太陽光の導入ポテンシャルが1億4,686万kWと推計されている。これらを合計した日本国内の太陽光発電の導入ポテンシャルは3億3,203万kWに達する。なお、平成24年度の調査では、より詳細に区分された地域別に年間の予想発電量を推定することで、これまでの推計と比較して精度の向上が図られている。

風力発電については、従来から導入が進められてきた陸上について、導入ポテンシャルが2億6,756万kWと推計されている。特に東北地域や北海道において導入ポテンシャルが大きく推計されている。さらに洋上風力については北海道、九州を中心とした地域で導入ポテンシャルが大きく、13億8,265万kWと推計されている。陸上と洋上をあわせた風力発電の導入ポテンシャルは16億5,021万kWと推計され、日本国内に現在ある発電設備の全設備容量を遥かに上回る量である。平成24年度の調査では、陸上風力において、自然公園などの規制データの更新や、地上開度を考慮することで推計精度の向上が図られている。洋上風力の調査では、島嶼部を控除した条件付き導入ポテンシャルの推計が実施されている。

地熱発電については、150℃以上の地熱資源について、国立・国定公園や都道府県立自然公園における開発可能性を除いた導入ポテンシャルが232万kWと推計されている。一方で、環境省「国立・国定公園内における地熱開発の取り扱いについて」(平成24年3月27日)において、第2種および第3種特別地域の開発可能性が示されたことを受けて、平成24年度の調査では、150℃以上の国立・国定公園の第2種および第3種特別地域の開発可能性を考慮した導入ポテンシャルが848万kWと推計されている。この導入ポテンシャルに、150℃未満の導入ポテンシャルを加えると、地熱の導入ポテンシャルは合計で、1,631万kwと推計される。

中小水力については、水資源の豊富な全国の山間地域において導入が可能であり、その導入ポテンシャルは1,444万kWと推計されている。平成24年度の調査では、今後の推計精度向上に向けた課題が整理され、精度向上の方法が検討されている。表5.4および図5.11には、環境省の「平成24年度 再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報整備報告書」において推計されている導入ポテンシャルを電力供給エリアによる地域別に示す。各エネルギーがそれぞれ異なる特徴を持って、特定の地域に集中して分布する傾向が示唆されている。

表5.4 環境省の調査による自然エネルギーの地域別導入ポテンシャル(単位:万kW)

電力供給エリア 太陽光 風力(陸上) 風力(洋上) 中小水力 地熱 合計
北海道 1,798 13,238 38,360 131 750 54,277
東北 4,216 6,892 21,613 424 398 33,108
関東 7,633 485 6,656 202 141 11,414
北陸 1,573 433 5,280 169 73 11,906
中部 4,326 853 3,869 230 111 9,176
関西 3,639 1,068 2,540 29 8 7,259
中国 3,090 841 11,778 59 15 15,769
四国 1,627 451 4,167 59 4 6,323
九州 4,988 1,942 36,593 90 131 43,744
沖縄 314 553 7,410 0 0 8,277
合計 33,204 26,756 138,265 1,393 1,631 201,253

 

図5.11 環境省の調査による自然エネルギーの地域別導入ポテンシャル

風力発電について、上記の環境省の調査において北海道や東北そして九州に多くのポテンシャルがあることがわかっている。これは日本風力発電協会(JWPA)による調査でも示唆されており、特に北海道では現在導入されている全ての発電設備(火力や原子力を含む)に対して、30倍もの導入ポテンシャルがあるという調査結果となっている。しかし、その豊富な自然エネルギーによる電力を、エネルギー需要の大きい他の地域へ送る為のインフラ(送電系統など)が課題となってくる。その中で、陸上での導入に加えて洋上での風力発電の導入も期待されており、日本国内でも技術開発や実証試験が始まっている[3]

さらに日本国内には、世界第三位の地熱資源による地熱発電や地熱利用の大きな可能性がある。産業技術総合研究所が2008年度に行った地熱資源量の評価結果では、大規模な蒸気を利用した地熱発電の導入可能量が約2,300万kWあり、現在導入済みの発電設備容量の40倍以上に達する。さらに日本には高温のため利用されていない温泉のエネルギーがあり、それを発電に活用する温泉熱発電(バイナリー発電)の導入可能量は約900万kWあると推計されている。

バイオマス資源の種類は実に多彩であり、地域での資源量の把握およびその収集・活用方法の検討には様々な調査や実証が必要になる。地域別のポテンシャル(賦存量)としては、NEDOの「バイオマス賦存量・有効利用可能量の推計」データベースがある[4]。バイオマスの種類としては、大きく未利用系資源と廃棄物系資源に分類されている。未利用系バイオマスには、木質系(林地残材、切り捨間伐材、果樹剪定枝、竹)、農業残渣(稲わら、もみ殻、麦わら、その他)、草木系(ササ、ススキ)がある。廃棄物系バイオマスには木質系(製材廃材、建築廃材、子公園剪定枝など)、家畜ふん尿・汚泥(牛・豚・鶏・ブロイラーのふん尿、下水汚泥、し尿など)、食品系(加工廃棄物、家庭系や事業系生ごみ)がある。

ここでは、バイオマス種別毎に市町村単位あるいは1平方キロメートルメッシュ単位で賦存量を知ることができる。ただし、ここでは各地域の賦存量をデータとして俯瞰することを重視し、分布量の推計には公表されている統計データが用いられているため、地域での活用の際には注意が必要である。バイオマスの中でも日本の豊富な森林資源の活用は大きな可能性があるが、その地域毎の資源量の把握には森林に関する各種の統計情報の整備が必要である。

(ISEP)

5.3.2 太陽光発電

日本国内の太陽光発電の導入ポテンシャルについては、環境省の「平成21年度 再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」[5]において非住宅用の太陽光発電の導入ポテンシャルの調査を行っている。そしてその後も精度の向上が図られ[6]、平成23年度調査からは住宅用太陽光発電のポテンシャルも推計されている[7]。平成24年度の調査では、日本の地域別に予想発電量を推計することによって精度の向上が図られるとともに、ポテンシャルの集計区分(住宅用太陽光、公共系等太陽光)が見直されている。

公共系等太陽光発電の導入ポテンシャルは、まず各種導入対象のサンプル図面をもとに、太陽光パネルの設置可能面積や発電量を算出し、設置係数(各施設の単位面積当たりのパネルの設置可能面積等)を推計している。そして、各施設の設置係数と建築面積等の統計データをもとに、各施設、都道府県別の太陽光設備容量と年間発電電力量を推計している。

これらの調査結果としては、公共部門(庁舎、学校、文化施設、医療・福祉施設、上下水道施設等)で1,040~2,318万kW、産業部門(工場、発電所等)で1,392~2,987万kW、低・未利用地で164~2,736万kW、耕作放棄地で3,154~6,737万kWとしている。なおこの調査では、導入ポテンシャルの推計において、設置係数をレベル1から3といった複数想定することで、3段階の導入ポテンシャルを推計している。これらの導入ポテンシャルについて都道府県別にみると、公共系の施設では、東京都の導入ポテンシャルが最も大きく215万kWとなっているが、産業系の施設(工場等)では、愛知県が268万kWと最も大きくなっている。

住宅用等太陽光発電に関する導入ポテンシャルは、GISを用いて住宅地図から500mメッシュ単位で戸建住宅、共同住宅、商業施設等の面積(建築面積、延床面積)を抽出し、設置係数をかけることで導入ポテンシャル及びシナリオ別導入可能量を推計している。この調査結果では、太陽光の導入ポテンシャルが商業系建築物(宿泊施設含む)で82~249万kW、戸建住宅等で4,458~13,898万kW、大規模共同住宅・オフィスビル21~59万kW、中規模共同住宅1,348~4,312万kWと評価されている。これらの住宅用太陽光発電のポテンシャルは、埼玉県(861万kW)、千葉県(846万kW)、東京都(860万kW)、神奈川県(804万kW)と関東で大きく評価されている他に、愛知県で980万kWと大きく評価されている。

表5.5および図5.12には、日本の太陽光発電の導入ポテンシャルを示す。上述した住宅用等太陽光発電と公共系等太陽光発電の合計値は日本全体で3億3,204万kWである。この値は、年間発電電力量で3,490億kWh程度となり、2011年度の日本全体の発電量である1兆1,131億kWhの約3割程度に相当する。

表5.5 日本国内の太陽光発電の導入ポテンシャル(環境省データを集計)

電力供給

エリア

住宅系建築物(戸建、共同住宅、オフィスビル) 商業系建築物(商業、宿泊) 公共系建築物(庁舎、文化施設、学校、医療施設など) 産業系建築物・用地(発電所、工場、物流施設など) 低・未利用地(最終処分場、河川、港湾施設、空港、鉄道など) 耕作放棄地 合計
北海道 842 15 122 159 301 359 1,798
東北 2290 28 266 320 442 870 4,216
関東 5177 75 666 708 512 495 7,633
北陸 587 8 74 115 87 702 1,573
中部 2612 31 291 587 316 489 4,326
関西 2317 38 368 408 290 218 3,639
中国 1366 16 166 246 256 1040 3,090
四国 741 8 81 91 156 550 1,627
九州 2177 28 258 255 334 1936 4,988
沖縄 159 3 25 8 41 78 314
合計[万kW] 18270 249 2,317 2,897 2,735 6,737 33,204
年間発電量[億kWh/年] 1,916 37 242 305 287 703 3,490

図5.12 日本国内の太陽光発電の導入ポテンシャル(環境省調査データを集計)

また、経済産業省「平成22年度新エネルギー等導入促進基礎調査事業(太陽光発電及び太陽熱利用の導入可能量に関する調査)」[8]では、太陽光の導入可能量を全国合計値で、23,800万kWと推計している。この値には低・未利用地(耕作放棄地を含む)を含んでいない。平成24年度の環境省の推計における33,204万kWから低・未利用地・耕作放棄地を除くと2億3,732万kWとなり、非常に近い値となっている。

(ISEP)

5.3.3 風力発電

風力発電の賦存量とポテンシャル調査は、2000年1月に経済産業省が実施した、「新エネルギー等基礎調査」以来、日本風力発電協会が2007年12月に(V0.0)、2010年1月に(V1.1)、2010年6月に(V2.1)、2011年7月に(V3.0)を、また環境省が2010年3月および2011年3月に実施した「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」[9]、2012年5月に実施した「東北地方における風況変動データベース作成事業」[10]および経済産業省が2011年2月に実施した「新エネルギー等導入促進基礎調査事業」[11]がある。これらは、年々解析精度の向上を図ると共に、ポテンシャル算出のための制約条件を精緻化したものである。またこれらを基にして2014年5月に「風力発電ポテンシャルと中長期導入目標V4.3」を公表した[12]

ここで賦存量とは、理論的に算出することができるエネルギー資源量の内、明らかに利用することが不可能であるもの(例:風速5.5m/s 未満の風力エネルギーなど)を除く資源量であって、種々の制約要因(土地用途、利用技術、法令、など)を考慮しないものをいい、ポテンシャルとは、エネルギーの採取・利用に関する種々の制約要因を考慮したエネルギー資源量であって、特定の社会条件による一時点における導入可能量をいう。

さらに、シナリオ別導入可能量とは、ポテンシャルの内数であり、事業収支に関する特定のシナリオ(仮定条件)を設定した場合に具現化が期待されるエネルギー資源量をいう。日本全国における陸上風力の、賦存量、ポテンシャルおよびシナリオ別の算出結果を図5.13に示す。

図5.13 風力の賦存量、ポテンシャルとシナリオ別導入可能量(環境省調査データ等よりJWPA作成)

ただし、これらのシナリオ別導入可能量とポテンシャルとを比較するには、日本全国の発電設備容量が、2億700万kWであること、ポテンシャルは北海道、東北、九州に集中していることおよび地域により風速分布が異なることに注意を要する。

  • シナリオ2(技術革新、コストダウン)≒年間平均風速5.5m/s以上
  • シナリオ1-3(FIT 20円/kWh、20年)≒年間平均風速6.5m/s以上
  • シナリオ1-2(FIT 20円/kWh、15年)≒年間平均風速7.0m/s以上
  • シナリオ1-1(FIT 15円/kWh、15年)≒年間平均風速8.0m/s以上

賦存量、ポテンシャルは、最新の国土数値情報を基に100mメッシュで算出した面積を、設備容量へ換算して公表をしている。以下に適地面積から設備容量への換算に適用した前提条件などを示す。

現在は、単機出力2,000kW~3,000kWが主流となっており、ローター径(D)も長くなっている。複数の風車配置に際しては、NEDO風力発電導入ガイドブック(2008年2月改訂第9版)から、卓越風向がある場合の推奨値(10D×3D)を採用し、主要風車の出力とローター径の調査結果および既設ウインドファームの実績から、風車の単機出力による差は僅かであることが判明したので、ここでは、単機出力にかかわらず1k㎡当り1万kW(10MW)とした。なお、陸上風力の場合は、3列未満の配置が多く、必要なエリア面積は少なくなるが、これは設置可能量算定に際するマージンとなる。図5.14に風車出力とローター径およびk㎡当り出力を示す。

図5.14 風車出力とローター径および10D×3D配置時のkm2当り出力(JWPA)

なお、2,000kW級風車を1基建設する場合、据付維持に必要な専有面積は100m×100m(1ha)程度であるが、複数台の風車を建設する際に必要なエリア面積は、主風向に対する風車列数により異なることと、風車設置位置以外は牧草地など他の用途に使用可能であることに注意を要する。

2,000kW機を30基設置する場合の、風車列数とエリヤ面積との関係を以下に示す。

  • 30基×1列の場合:約86ha≒0万kW/ k㎡
  • 15基×2列の場合:約360ha≒7万kW/ k㎡
  • 10基×3列の場合:約410ha≒5万kW/ k㎡

陸上風力のポテンシャル(6.0m/s以上に限定した場合)

陸上風力のポテンシャルは、北海道、東北、九州に集中しており各電力会社の設備容量や事業性を考慮する必要がある。賦存量から社会的制約条件を考慮した「陸上風力ポテンシャル」の内、事業性の面から80m 高さで年間平均風速6.0m/s以上に限定したポテンシャルは、以下の通りである。

  • 各電力会社の設備容量を考慮しない場合:2億983万kW(国内全発電設備容量の1.02倍)
  • 各電力会社の設備容量を上限とした場合:7,436万kW(国内全発電設備容量の36倍)

各電力会社管内別の陸上風力の導入ポテンシャルを以下の図5.15に示す。

図5.15 各電力会社管内別の陸上風力ポテンシャル(JWPA, 60Hzは、沖縄を除く)

着床式洋上風力のポテンシャル(7.0m/s以上に限定した場合)

着床式洋上風力のポテンシャル(離岸距離30km未満、水深50m未満)の内、事業性の面から80m 高さで年間平均風速7.0m/s以上に限定したポテンシャルは、以下の通りである。

  • 各電力会社の設備容量を考慮しない場合:1億5,646万kW(国内全発電設備容量の76倍)
  • 各電力会社の設備容量を上限とした場合:6,165万kW(国内全発電設備容量の30倍)

各電力会社管内別の洋上風力のポテンシャルを図5.16に示す。

図5.16 各電力会社管内別の着床式洋上風力ポテンシャル(島嶼を除く)

浮体式洋上風力発電のポテンシャル(島嶼を除き、7.5m/s以上に限定した場合)

浮体式洋上風力のポテンシャル(離岸距離30km未満、水深50m以上200m未満)の内、事業性の面から80m高さで年間平均風速7.5m/s以上に限定したポテンシャルは、以下の通りである。

  • 各電力会社の設備容量を考慮しない場合:3億46万kW(国内全発電設備容量の1.45倍)
  • 各電力会社の設備容量を上限とした場合:8,480万kW(国内全発電設備容量の0.41倍)

各電力会社管内別の浮体式洋上風力ポテンシャルを図5.17に示す。

図5.17 各電力会社管内別の浮体式洋上風力ポテンシャル(諸島を除く場合)

市町村別および地域別ポテンシャル

風力発電のポテンシャルは、500mメッシュの風況データと、100mメッシュの土地利用区分などのデータを基に算出しているため、特に陸上風力に関しては、縮尺の大きな地図では具体的な適地が判別しにくいので、陸上風力に関しては、市町村別に集計したポテンシャル量を、洋上風力に関しては、風速を示したポテンシャルマップが「自然エネルギー白書2013」の巻頭カラー図Dに示されている(各市町村の面積が異なる事に、注意を要する)。

(日本風力発電協会 JWPA)

5.3.4 小水力発電

小水力発電の導入ポテンシャルについては、経済産業省「中小水力開発促進指導事業基礎調査」(2010年3月)、環境省「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」(2011年3月)によって実施された調査以外はまだ行われていない。その調査結果を簡単に振り返ると以下のようになる。

環境省の調査報告書によれば、日本全体の中小水力発電の賦存量は河川部に1,650万kW、農業用水路に32万kWと推定されており、そのうち開発不適地を除いた導入ポテンシャルは河川部に1,400万kW、農業用水路に30万kWと見込まれている。また、固定価格買取制度が導入されることを想定した場合のシナリオ別導入可能量についても推計を行い、その結果、河川部で90 万~406 万kW、農業用水路で16 万~24 万kW となった。

なお、この試算にあたっては、現状の利水に支障が生じないよう、かつ、既存取水量が多い日を抽出し、さらに維持流量を考慮して試算したため、保守的な評価となることを考慮する必要がある。加えて、水力発電関係工事は発電事業以外の目的でもなされるので、固定価格買取制度に対応した事業収支シミュレーションは、一層保守的な評価となるため、参考値的な扱いで考えるべきであるが、地域エネルギー政策の立案に役立つ。この調査に基づいて既設大規模発電所を控除したポテンシャルマップを公開しており、詳細データを希望する自治体にはGISデータが配布された。

一方で経済産業省の調査によれば、水力発電の開発促進を図るため1913年(明治43年)以降全国規模で個別地点ごとのポテンシャル調査を包蔵水力調査として実施しており、それらを統合した未開発の理論包蔵水力として2008年3月における未開発包蔵水力(一般水力)は2,714 地点、1,213 万kW、458 億kWh、となっており中小水力については2009年3月の調査において1,397 地点、34 万kW、17 億kWh とし、2020年までの最大導入ケースとして1,300地点としている。図5.18には資源エネルギー庁よる2015年3月末時点の包蔵水力調査による出力区分別の発電出力を, 図5.19には。包蔵水力調査による出力区分別の地点数を示す[13]

図5.18 包蔵水力調査による出力区分別の発電出力|出所:資源エネルギー庁 発電水力調査


図5.19 包蔵水力調査による出力区分別の地点数|出所:資源エネルギー庁 発電水力調査

経産省、環境省が行ったポテンシャル調査の結果を元に、複数の都道府県内でのポテンシャル調査を取りまとめ、各自治体が公表しているものを紹介する。福島県が公表している再生可能エネルギーの水力導入ポテンシャル量(可採量)は、福島県全域で、設備容量では26万kWであり、会津15万kW、中通り8万kW、浜通り3万kWと公表されている[14]。また、福島県はインターネット上で、開発可能性が高い地点を規模別や農業用水路、河川といったタイプ別に表示されるマップを掲載し、導入促進を図っている。

奈良県では、2012年4月に公開された「奈良県の再生可能エネルギー等利活用の基本的な考え方」にて、同県のポテンシャルが近畿で1位であるとし、導入に向けた課題などの整理を行なっている。なお同県の導入ポテンシャル(設備容量)は6.6万kWであり、河川部は6.6万kW、農業用水路は0である[15]。また、長野県も県内のポテンシャル量を公表しており、合計86.6万kWであり、河川部が83.7万kW、農業用水路が1万kW、未利用落差が1.9万kWである。山形県は、導入ポテンシャルを受けて県内の既存施設の紹介、100kW以上の開発適地調査を行い、22地点を候補としてあげ、詳細に報告書で公開している[16]

このように現在、包括的な新しいポテンシャル調査は行われてはいないものの、各都道府県にて導入を促す調査結果の公表、データの公開などが勧められている。すでに小水力発電の国内の現状の箇所で説明したように、2012年は調査や候補地点の選定などに比重が置かれており、より具体的なデータの公開が進んだ。

(全国小水力利用推進協議会, ISEP)

5.3.5 地熱発電と熱利用

独立行政法人産業技術総合研究所は、2008年にGIS技術を活用した我が国の地熱資源量評価を行った。この評価では、温泉データから得られる活動度指数から地下温度構造と、地表から重力基盤深度までを地熱貯留層の厚さとして、容積法による資源量を全国規模でマッピングしている。これによると、温度が150℃以上の地熱資源量は、約2,347万kWと試算されている。

地熱資源は、日本全国に広く分布しているが、ポテンシャルが大きい地域には、年間日照時間が短い北陸や東北、北海道が含まれる。現在の設備容量合計55万kWと比較すると今後の開発可能性は大きく残されている。また、世界的に見ても、日本は、アメリカ合衆国、インドネシアと並んで他を圧倒する三大地熱資源大国である。このことは、世界主要地熱資源国の活火山数と地熱資源量が正相関するという定説とも調和している。

我が国には、高温のために廃棄されている温泉が相当ある。これらの温泉に前述した温泉発電(50kWカリーナサイクル発電システム)の利用を想定すると、1591個の温泉が適用対象となり、72.3万kWの資源量が見積られる。また上述の同じ全国規模の地熱資源評価で、温度が53℃以上120℃未満の温泉発電に対応する熱水系資源量を評価したところ、833万kWの資源量が見積もられる。

現在、地熱発電所では発電用の蒸気と分離した熱水は還元井を通して地下に戻されているが、その温度は100℃近くで、まだ大きな熱エネルギーを有しており、温泉発電の熱源とすることも可能である。発電にふさわしい一定規模以上の熱水は7発電所で得られ、その総熱水流量は711t/hに達する。これを一定条件で発電に用いると1.3万~2.0万kWに相当する。

我が国では、温泉浴用、直接熱利用のポテンシャルを見積もった例はない。しかし、日本の温泉は浴用以外にはほとんど利用されず、しかも源泉温度が高すぎる場合は冷ましてから使い、使用後はそのまま捨てている。これは、熱利用及び持続可能な温泉利用の観点からは非常に無駄が多い。そこで、現存する温泉熱について浴用と競合しない形での有効利用(例えばカスケード利用と呼ばれる温度別利用法)を考え、利用可能な熱量、つまりポテンシャルを計算した。

利用最終温度を幾らにするかによりポテンシャルは異なるが、最終温度45℃の場合には80 PJ、20℃の場合で120 PJとなり、温泉浴用の2~3倍の未利用熱エネルギーを見積もることができる。温泉数がコンスタントに伸びていること、地下深く掘れば必ず熱を得られることを加味すると、適正な政策的支援を行うことによって地産地消エネルギーとしての大幅な利用拡大が期待できる。さらに、地熱・温泉地域でなくても適用が可能な地中熱利用では、夏季の冷房排熱を地下に蓄熱し冬季に取り出して利用するという二重のメリットがあり、熱利用として想定される以上のポテンシャルが期待できる。

(ISEP)


[1] 環境省「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」http://www.env.go.jp/earth/report/h23-03/

[2] 環境省「平成23年度 再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報整備報告書」http://www.env.go.jp/earth/report/h24-04/および環境省「平成24年度 再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報整備報告書」https://www.env.go.jp/earth/report/h25-03/index.html

[3] JWPA「日本の洋上風力発電」 http://log.jwpa.jp/content/0000289388.html

[4] NEDO「バイオマス賦存量・有効利用可能量の推計」http://app1.infoc.nedo.go.jp/biomass/

[5] 環境省「平成21年度 再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査調査報告書」http://www.env.go.jp/earth/report/h22-02/index.html

[6] 環境省「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」http://www.env.go.jp/earth/report/h23-03/

[7] 環境省「平成23年度 再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報整備報告書」http://www.env.go.jp/earth/report/h24-04/

[8] 経済産業省「平成22年度新エネルギー等導入促進基礎調査事業(太陽光発電及び太陽熱利用の導入可能量に関する調査)」http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2011fy/E001772.pdf

[9] http://www.env.go.jp/earth/report/h23-03/index.html http://www.env.go.jp/earth/ondanka/rep/index.html

[10] http://www.env.go.jp/earth/report/h24-02/index.html

http://www.env.go.jp/earth/ondanka/windmap/index.html

[11] http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2011fy/E001771.pdf

[12] JWPA「風力発電導入ポテンシャルと中長期導入目標 V4.3」http://jwpa.jp/page_195_jwpa/detail.html

[13] 経産省資源エネルギー庁「水力発電について:出力別包蔵水力(一般水力)」http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/hydroelectric/database/energy_japan006/

[14] 福島県「再生可能エネルギーの賦存量と可採量 (一次エネルギー供給換算)http://www.pref.fukushima.jp/chiiki-shin/saiseiene/potential/abundance/abundance01.html

[15] http://www.pref.nara.jp/secure/81936/20120419energy_3.pdf

[16] 山形県再生可能エネルギー活用適地調査http://www.pref.yamagata.jp/ou/kankyoenergy/050016/tekitityousa_houkoku.html