2.7 ご当地エネルギーの動向

国内のご当地エネルギー(コミュニティパワー)の動向について、昨年に引き続き、電力系統の「空き容量ゼロ問題」および「工事負担金問題」により、多くのコミュニティパワーの担い手たちの発電部門での取り組みは全般的に停滞している。特に、専業で地域所有の自然エネルギーに取り組む事業主体の新規立ち上げの動きは、3.11直後の数年間と比較して一段落したといえる。

しかしながら、農地でのソーラーシェアリングの可能性を追求する動きや、都市部での屋根上太陽光発電の可能性を再評価する動き、地域新電力との連携のもとで新たなビジネスモデルを追求する動きなどがあり、国内のコミュニティパワーは新たな進化を模索するステージに入っているといえる。ここでは、こうした動きに関連して、特徴的な主体やプロジェクトを取り上げる。

めぐるでんき

コミュニティパワーの新たな主体立ち上げの動きが落ち着くなか、2017年7月、東京都板橋区を拠点とする「めぐるでんき株式会社」が設立された。2016年に板橋区で開催された省エネルギーのセミナーをきっかけに有志が集い、約1年のビジョン構想と事業計画作成を経て設立された同社は、自然エネルギーを地域でつくり、地域で使い、その利益を福祉や教育など地域の未来をつくる活動に循環させることをコンセプトに掲げている。同社の代表取締役社長には板橋区在住で、株式会社エナリス執行役員も務める渡部健氏が就任した他、取締役にはたまエンパワー株式会社代表取締役社長の山川勇一郎が就任し、先行して都内で屋根上太陽光発電事業を展開してきた知見を活かす体制が組まれている。具体的な事業計画としては、自然エネルギー開発事業、電力小売事業、スマートコミュニティ事業、ソーシャルインパクト投資事業の4つを柱としており、IoTやAIといった技術の活用や多様な社会的便益の創出をめざす投資なども視野に入れている点に特徴がある。

湘南電力

コミュニティパワーの発電事業主体が地域新電力と連携して新たなビジネスモデルを展開する動きとして、湘南電力の「地域へのオーナーシップ移譲」が挙げられる。湘南電力株式会社は、2014年9月に株式会社エナリスとサッカーJリーグ所属株式会社湘南ベルマーレの共同出資のもとで設立され、電力の地産地消と湘南ベルマーレを通じての地域活性化を展開してきた。また、湘南電力は、ほうとくエネルギー株式会社、株式会社古川、小田原ガス株式会社と協働で「小田原箱根エネルギーコンソーシアム」を2016年に立ち上げ、地元発電事業者との連携および地元ガス会社による販売代理の体制を展開している。

こうしたプロセスを経て、「分散型エネルギー社会の担い手は地域新電力であり、そのオーナーシップも地元がもつことでより地域に密着した展開を早期に実現することが可能となる」との観点から、2017年5月、エナリスは当初保有していた198株(発行済み株式の99%)の内160株を小田原市の地元企業5社(小田原ガス株式会社、株式会社古川、ほうとくエネルギー株式会社、株式会社ニッショー、有限会社オーワンカンパニー)へと移譲した。この資本提携にともない、小田原地域でエネルギーの地産地消に尽力してきた関係者が湘南電力の役員に就任し、地域へのオーナーシップ移譲が実施された。

この動きと並行して、湘南電力、エナリス、ほうとくエネルギーの3社は、小田原市が2017年4月に実施した公共施設での電力供給および太陽光発電・蓄電池の導入・運用に関するプロポーザルに応募し、採択されている(図2.20)。湘南電力が小田原へと地域オーナーシップを移したことにより、地元企業であるほうとくエネルギーが生み出す太陽光発電を、地元企業である湘南電力が地元の公共施設に供給することとなり、電力と経済の流れの両面で「地産地消」が実現されることとなった。また、蓄電池を活用してエナリスがエネルギーマネジメント(インバランス抑制、ピークシフト、ピークカット)を行うことにより、エネルギーの効率化とエネルギー費用の削減も同時に実現される見込みである。

図2.20 小田原市エネルギーの地域自給の促進に係るモデル事業全体イメージ|出典:小田原市

湘南電力の例に見られるように、新電力の地域へのオーナーシップ移譲というモデルは、エネルギーと経済の流れを地域で循環させる上できわめて有効な手法であると考えられる。また、これは新電力の多くが参考にするドイツのシュタットベルケの理念を日本の文脈で実現するひとつの手法として捉えることもできる。今後、こうしたモデルが地域それぞれの事情に応じて展開することが期待される。

生協電力によるご当地エネルギーの電力調達

2016年4月にはじまった電力の小売全面自由化のもと、生活協同組合が新電力を立ち上げ、電源構成および発電所を明示した電力を組合員に供給する動きが活発化した。電力供給事業立ち上げ期を経て、生協電力各社は積極的にご当地エネルギーの電力を調達する動きを見せている。

パルシステム電力は、秋田県大潟村の「株式会社大潟共生自然エネルギー」、宮城県丸森町筆甫の「ひっぽ電力株式会社」、福島県飯舘村の「飯舘電力株式会社」、静岡県静岡市の「しずおか未来エネルギー株式会社」などの太陽光発電、栃木県那須塩原市の「那須野ヶ原土地改良区連合」の小水力発電、福島県福島市の「株式会社元気アップつちゆ」の地熱発電などのご当地エネルギーから電力の調達をはじめている。パルシステム電力が調達を行う発電産地が保有する発電所数は、2017年度中に合計で42ヵ所へと拡大されることが予定されている。

生活クラブエナジーは、北海道石狩市の市民風車のほか、福島県喜多方市の「会津電力株式会社」、福島県飯舘村の「飯舘電力株式会社」や首都圏の市民太陽光発電などの調達をはじめている。

生協電力によるご当地エネルギーの電力調達には、2つのメリットがあるといえる。第1に、生協電力は産地と担い手が明確な電力を供給することで、価格以外の独自性を顧客に訴求することが可能となる。第2に、生協電力は従来の電力会社よりも一定程度高い価格でご当地エネルギーから電力を購入することが多く、ご当地エネルギー事業者にとっては経済的なメリットを享受することができる。

生協電力によるご当地エネルギーの電力調達の動きは、今後も広がっていくことが期待される。その一方で、ご当地エネルギー事業者による電源開発は依然として系統接続問題により停滞を余儀なくされる状況が続いている。ご当地エネルギーの新たなビジネスモデルの進展を考える上でも、公平・公正な送電線接続・利用に向けた政策づくりが喫緊の課題であると考えられる。

(ISEP 古屋将太)


 

全国ご当地エネルギー協会

全国ご当地エネルギー協会(以下、当協会)は、2017年で成立3年を迎え、会員団体は50団体(正会員27団体、準会員23団体)となった。

全国各地域で立ち上がってきた地域主導型・市民参加型のエネルギー事業体を中心に発足した当協会は、これまで国内外各地のご当地エネルギーをネットワークし、社会ビジネスモデルの開発や情報・経験の共有、海外の先進地域との連携、政策提言、国内外各地での新たなご当地エネルギー事業の立ち上げ支援や人材育成等を進めてきた。

設立当初とは社会情勢や事業環境の変化などが大きく変化する中、そうした激変する環境に対応し、次なる展開を求めて、主に以下の活動を推進している。

ソーラーシェアリングの開発・推進

2017年度の活動の柱として、分散型ソーラーシェアリングの展開が挙げられる。関心のある地域において、ステークホルダーを交えたワークショップ等を行うことで理解を深め、地域と協働でそのプロセスづくりを含めて支援してきた。

そうした取り組みの結果、2017年度は4地域50ヵ所で設備認定の手続きを進めており、地域での分散型自然エネルギーの拡大につながっている。

ソーラーシェアリングの展開には、「リースモデル事業」を開発・活用することで、資金面からもサポートを行っている。ご当地エネルギー事業を担う団体は、小規模で財政的な基盤が脆弱であることが多く、事業化においては、特に初期投資の資金調達が課題となる。

そこで、太陽光パネルをリースで調達することにより、初期投資を低額で抑えることが可能な「リースモデル」事業を、城南信用金庫と協力で開発し、小規模分散型のソーラーシェアリング導入に活用できるよう支援してきた。

さらに、このリースモデルを活用することにより、当協会が事業主体となり、会員団体と協働で熊本県水俣市に太陽光発電所(1.8 MW)を設立することができた。本発電所の発電収益の一部を活用し、「熊本水俣再生基金(仮称)」を立ち上げ、水俣地域の活性化や熊本地震への復興支援に寄与することを目指す。

ご当地電力証書

設立当初から構想していた「ご当地電力証書」については、今年度、念願のパイロット事業を開始し、会津電力及び飯舘電力の2団体の発電所4件の認証を行った。

「ご当地電力証書」認証制度では、電源及び事業者について、地域性、社会性などを第三者委員会が審議・認証することで、地域に資する「ご当地電力」を見える化している。認証した証明書は、新電力である生活クラブエナジーの電気として、広く組合員に供給している。

本制度は、パイロット段階ではあるが、今後認証を増やしていくことで、消費者が 「ご当地電力」を選択することができる社会を目指していく。

系統空き容量ゼロ・工事負担金等改善への申し入れ

ご当地エネルギー事業の拡大を阻む大きな要因として、系統の空き容量不足と各電力会社から過大な(系統接続)工事費負担金が挙げられる。当協会では、こうした問題を社会的に可視化するため、会員団体を対象に実態調査を行い、その具体的な状況の把握を行った。

この調査の分析結果に基づき、監督官庁である経済産業省への申し入れを行い、この問題の深刻さ及び重要性を訴え、その送電線利用ルールの改善を要望した。当協会では、今後も継続してこの問題について状況を把握し、広くメディアや行政に改善の提言を行っていく。

(全国ご当地エネルギー協会 田中ちずる)