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日本の再エネ出力抑制は「制度と運用の問題」である

日本各地で拡大する再エネ出力抑制は、本当に系統の物理限界が原因なのか。本レポートは、2025年春季の全国9電力エリア統合分析にもとづき、日本の再エネ出力抑制が制度と運用の問題であることをデータに基づいて検証する。

特に、2025年4月27日に全国で16.5GWの再エネが同時に抑制された事例と、東京電力エリアで2026年3月に実施された初の出力抑制を詳細に分析し、十分な揚水余力や火力の下げ代、未稼働の蓄電池が存在していたにもかかわらず、前日計画や長期契約、原子力・石炭のベースロード運用によって再エネが無駄に捨てられた構造を明らかにする。

なぜ日本の再エネは捨てられてしまうのかという問いに対し、本レポートは「日本の再エネ出力抑制は制度と運用の問題であり、東京電力の2026年3月の出力抑制は回避できた」という結論を提示する。その上で、出力抑制の実態と要因、どのような制度・運用の見直しによってどこまで抑制を削減しうるのかを示し、政策提言へとつなげる。

要旨
  1. 東京電力の初回抑制は物理的に回避できた:東京電力は2026年3月1日に1,180 MWの出力抑制したが、当日、揚水3,800 MWが残余力、LNG下げ代が1,248 MWが未活用であった。これは前日計画硬直性の典型的な証拠である。
  2. 運用変更で6GWの出力抑制が回避可能: 2025年4月27日11:30、日本全国で16,457 MW(原子力大型機約15基分)の出力抑制されたが、その1%(6,268 MW)は運用変更で直ちに回避できた。
  3. 蓄電池の制度的不在:2025年4月27日11:30 の系統用蓄電池の稼働は44 MW(揚水発電の25%)。容量市場などでの契約済みの蓄電池は2026年度以降には1GW以上になる見込みで、制度・収益モデルの整備で追加投資なしに月間抑制62%削減が可能。
  4. 火力の運用硬直性:同じ4月に各社が実現した月最小値まで下げるだけで3,716 MW(抑制の6%)が回避可能。前日計画・長期契約の硬直性が原因。
  5. 石炭火力ベースロード化継続に起因:石炭 → LNG切替で最大6,268 MW(1%)の出力抑制が回避可能。9社のLNG設備余力は+42,554 MW。
  6. 北陸電力に見る広域連系不在の証拠:2025年4月26日に石炭火力の161 MWまでの抑制を実現した北陸電力が4月27日により条件の良い状況で421 MWにしか抑制できなかった。九州・中国・四国は同じ日に石炭火力を抑制し、低水準の運転を維持。
  7. 国際比較が示す制度設計の失敗:九州電力はVRE比率18%(ドイツの約2分の1)で2023年度の年間抑制率が3%に達した(2024年度は6.2%に減少)。VRE比率が低いのにこれだけ高い抑制率は制度設計の失敗。2030年にVRE比率が現在の2倍超に達した時、今の制度のままでは年間抑制率が構造的に悪化する。
  8. 原子力再稼働と出力抑制との強い因果関係:再稼働エリア(東北・東京・中国・四国・九州)ではいずれも再稼働後に春季抑制が拡大した。例外的に中国電力は島根2号機再稼働(原発比率 0 → 14.2%)にもかかわらず月次抑制率を2%から3.0%へと改善した。原発再稼働は抑制拡大の構造的圧力だが、運用改善である程度相殺可能である。
  9. 需要シフトで出力抑制の9割以上を回避可能:電気温水器・エコキュート の昼間運転を制度すれば出力抑制の9割以上を回避できる可能性がある。
政策提言

上記の分析を踏まえ、以下の優先順位のもとで政策を提言する。

最優先(即時)

  1. 前日計画の当日最適化義務付け:再エネ余剰時の当日再計画を制度化
  2. 長期相対契約(電源Ⅲ)に再エネ余剰時の下限緩和条項を追加

短期(1〜2年)

  1. 容量市場落札済み蓄電池の2026年度内稼働確保(3,000 MW → 月間抑制 62%削減)
  2. 出力抑制補償制度の創設(30円/kWh以上で蓄電池事業回収 10〜12年)

中期(2〜5年)

  1. 春季低需要期の原子力低出力運転制度化(70% → 抑制 19%削減、投資不要)
  2. 広域需給調整市場とメリットオーダー最適化の強化
  3. 再エネ優先給電ルールの法的実効性確保

需要側シフト

  1. 電気温水器・エコキュート昼間運転の制度化(4,000〜8,000 MW の昼間需要創出)
  2. 家庭用蓄電池普及加速と太陽光逆潮流スマート制御(ハワイ電力Smart DER型)

1. 分析の背景と問い:物理的限界か、制度の失敗か

2025年4月27日11:30、日本全国(沖縄除く)で16,457 MW(16.5GW)の再生可能エネルギー電力が出力抑制された。これは原子力大型機(出力110万kW)約15基分に相当する。

これに対して、本レポートは、以下の問いを設定し、実際のデータにもとづいて分析を進めた。

16.5GWの再エネ電力は物理的・構造的に出力抑制せざるを得なかったのか、それとも運用・契約・計画硬直性という制度選択の結果として出力抑制されたのか?

分析の結果からは、最大38.1%(6,268 MW)が設備増強なしに運用の変更だけで回避可能だったという結論が得られた。

従来、大規模抑制は「九州の春季問題」として語られてきた。しかし今回の9社統合分析では、これが日本全国の恒常的な構造問題であることが明らかとなった。

データ

上記の問いのもと、以下のデータをもちいて、分析をおこなった。

  • 各一般送配電事業者「エリア需給実績」(9社・全30分値・収支検証済)
  • OCCTO「出力抑制に関する検証結果」別紙:ユニット別最低出力(事業者合意値)確定
  • IEA「Renewables 2025」1 IEA “Renewables 2025” 2025.および ISEP 統計データ2 環境エネルギー政策研究所「2024年(暦年)の自然エネルギー電力の割合」2025年6月.による国際比較
  • JEPX スポット市場統計(前年比逆算による価格水準推計)

各エリアでの2025年4月27日11:30時点の再エネ出力抑制の実績データは以下の表の通り。

表1. 太陽光・風力の出力抑制実績(2025年4月27日11:30時点)

エリア太陽光抑制量(MW)太陽光抑制率(%)風力抑制量(MW)風力抑制率(%)備考
北海道33422.6%398.4%実測(4/27 11:30スナップ)バイオ45MW含む合計418MW
東北3,70051.5%1,08475.6%風力:発電量<抑制量
東京00%00%抑制なし
中部1,76718.1%56.7%
北陸00%00%
関西2,22735.2%1965.5%
中国2,12636.6%6797.1%
四国91937.6%880.0%
九州4,23542.6%61100.0%
9社合計15,289 MW25.3%1,123 MW52.4%バイオマス45 MW含む総計16,457 MW

2. 4つの検証

上記の問いに対する検証を進めるにあたり、2025年4月27日の一般送配電9社を統合した電力需給の全体像を確認する。

表2. 一般送配電9社統合スナップショット(2025年4月27日 11:30)

指標備考
9社合計需要72,521 MW
原子力(硬直電源)+石炭・LNG(本来調整可能な火力)28,545 MW需要の39.4%
再エネ発電能力46,103 MW需要の63.6%
再エネ抑制総計16,457 MW太陽光 15,289 MW + 風力 1,123 MW + バイオマス 45 MW
太陽光抑制率25.3%東北 51.5%、九州 42.6%
風力抑制率52.4%東北 75.6%(発電量より抑制量が多い)
系統用蓄電池動作44 MW揚水 17,297 MW の 0.25%
揚水運転17,297 MWフル動員

風力の出力抑制率52.4%は深刻である。東北電力エリアでは「風力の抑制量が発電量を上回る」状態になっており、日本最大の風力資源エリアでありながら瞬間的に過半を廃棄していることになる。

検証1:系統用蓄電池の制度的不在

このときの系統用蓄電池の稼働は44 MWのみであった。2026年度以降には容量市場等で契約済みの蓄電池が1GW以上あるが、アグリゲーター制度の未整備と収益モデルの未確立により実稼働には至っていない。「設備がない」のではなく「動かせる制度・経済性がない」というのが実情である。

2025年9月末時点で約0.5GWの系統蓄電池が系統接続済みだが、容量市場については、2025年度分はまだ容量市場の落札済み系統蓄電池は限定的(数万kW程度)である。2026年度以降は、長期オークション分も含めて1GW以上になり、2029年度には4GW以上になる見通しである。

表3. 系統用蓄電池の接続・稼働

年度系統接続済み蓄電池(MW)容量市場・長期オークション落札済(MW)月間抑制削減効果備考
2025年度(現状)約500数万kW程度(限定的)〜1%(S1)実稼働44 MWにとどまる(本報告書2.2節)
2026年度〜1,000〜1,5001GW以上(長期脱炭素電源オークション落札分稼働開始)〜21%(S2)容量市場・長期オークション落札済み設備の実稼働開始
2027年度〜3,0003GW規模(長期オークション本格稼働)〜62%(S3)本報告書S3シナリオ達成水準
2029年度以降4,000以上4GW超(長期脱炭素電源オークション見通し)100%以上(S4)容量市場メインオークション2029年度向け落札済み(OCCTO公表)

出所:資源エネルギー庁「次世代電力系統WG」資料(2024年)、OCCTO「容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度2029年度)」(2026年1月)、OCCTO「長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度2024年度)」(2025年4月)。月間抑制削減効果は本報告書表3.2のシナリオ(S1〜S4)に対応。

検証2:火力の運用硬直性と3,716 MWの下げ代

火力発電の出力を下げることで、再エネの抑制を回避できる可能性がある。LNGおよび石炭の下げ代と再エネの抑制削減率は以下の通り。

表4. LNGおよび石炭の下げ代と再エネの抑制削減率

電力会社LNG下げ代石炭下げ代合計抑制削減率
東北電力932 MW188 MW1,120 MW6.8%
東京電力1,248 MW01,248 MW7.6%
その他7社1,348 MW8.2%
9社合計3,716 MW22.6%

下げ代が使われない理由としては、(1)前日計画の硬直性(2)長期相対契約(電源Ⅲ)の下限出力義務(3)予備力要件の慣行的高止まりが挙げられる。OCCTOのデータを検証したところ、東新潟CC最低出力433 MWや橘湾1,2号340 MWが制約として機能している。

検証3:石炭 → LNG置換で最大38.1%が回避可能

石炭の稼働をLNGに置き換えることで、以下のように再エネの抑制を回避できる可能性がある。

  • 自エリア内LNG置換(連系線非依存):▲5,747 MW(9%)
  • 連系線融通含む完全置換(理論上限):▲6,268 MW(1%)

9社のLNG設備余力は +42,554 MW あるが、石炭がLNGより優先される理由は物理的必然性ではなく「石炭ベースロード」慣行長期相対契約の構造にある。

検証4:北陸電力 2025年4月26日と4月27日との比較

条件がより有利だったはずの2025年4月27日に、北陸電力エリアでは石炭火力の出力が前日より260 MWも増えた ―― 天候や需要では説明できないこの「異常な1日」に着目し、北陸電力の運用判断が全国の再エネ抑制に与えた影響を検証する。

  • 4月26日(土):石炭最小 161 MW(4月月内最低記録)を実現
  • 4月27日(日):石炭最小 421 MW(+260 MW増加)

→ 4月27日の物理条件はむしろ「下げやすい」日だった

  • 需要:▲207 MW(26日より低い)
  • 太陽光:ほぼ同等
  • 連系線受電:+362 MW
  • 風力:+40 MW

→ どの指標を見ても、石炭をさらに絞れる条件が揃っていた。

→ 同じ期間の全国比較から、九州・中国・四国の各エリアは、4月27日も石炭火力を低水準に維持していたことが確認できる。 北陸電力だけが異なる動きを示した。

→ OCCTO資料の検証から、七尾大田(石炭)事業者合意最低出力は212 MWであるものの、4月27日の実績は421 MWであり、合意最低出力の2倍となっていた。

週末は電力会社間の運用計画が分断されている可能性を念頭に、4月の「全土曜 → 日曜」ペアを分析した結果、この可能性は棄却された。

  • 4/12・4/19の日曜に石炭が増加した事例 → 太陽光の急減(天候悪化)で説明可能
  • 4/26 → 4/27 のみ → 感度比 ▲7.08倍 という、天候では説明できない異常パターン

4月27日の石炭増加は、天候でも制度でも説明できない。残された可能性は、運用上の個別判断である。

もし4月27日に、北陸電力が前日(4/26)と同水準(石炭161 MW)の運用を維持していれば、石炭▲260 MW分の下げ代が生まれ、以下のいずれかに振り向けることができた。

  1. 揚水ポンプアップの追加運転(+260 MW)
  2. 連系線を経由した他エリアの抑制電力の吸収(+260 MW)

結論:これは「北陸単独」の問題ではない

北陸エリア自体の再エネ抑制がゼロであっても、北陸の運用判断は全国の再エネ抑制量に影響する。つまり本件は、一エリアの問題ではなく、全国融通の機会損失として捉えるべき事象である。

3. 政策シミュレーション

これまでに明らかになった再エネ抑制の実態に対し、ここでは「どの政策を、どの規模で、いつ実施すれば、どれだけ抑制を減らせるか」を定量的に示す。蓄電池の急速導入(シミュレーションA)、経済的インセンティブ設計(シミュレーションB)、原子力低出力運転(シミュレーションC)の3つの政策オプションについて、それぞれの効果と実現条件を検証する。

月間の累計での再エネ抑制量(2025年4月実績)

政策効果を評価する前提として、まず、2025年4月の実績値から削減すべき「抑制量」の全体像を押さえる。

表4. 再エネ月間抑制量の全体像

電源種月間抑制量主要エリア
太陽光534 GWh東北 130 GWh、九州 280 GWh、中部 14 GWh
風力37 GWh東北 27 GWh、北海道 1 GWh
バイオマス10 GWh北海道
合計581 GWh

瞬時ピークでは16.5 GWに達するが、月間平均では1.2 GW(利用率26.6%)。これは年換算で約7,000 GWh規模の損失ポテンシャルに相当する。以降のシミュレーションは、この581 GWh(月間)をベースラインとして効果を評価する。

シミュレーションA:蓄電池急速導入の効果

「設備を新たに整備する」のではなく、「容量市場ですでに落札済みの蓄電池をいつ稼働させるか」という時間軸の問題として、抑制削減効果を試算した。

表5. 蓄電池稼働による抑制削減効果試算

シナリオ蓄電池容量月間削減削減率実現条件
S1 現状44 MW5 GWh1%現在
S2 短期(2026年度)1,000 MW120 GWh21%容量市場落札済設備の一部稼働
S3 中期(2027年度)3,000 MW360 GWh62%容量市場落札済設備の大半稼働
S4 長期(2030年度)10,000 MW581 GWh100%政策目標水準

政策的含意

容量市場で落札済みの設備が2027年度に稼働すれば(S3)、追加の設備調達なしに月間抑制の62%を削減できる。 問題の本質は「設備がない」ことではなく「稼働させていない」ことにあり、稼働遅延の解消こそが急務である。

シミュレーションB:蓄電池インセンティブと社会的損失規模

蓄電池導入を加速させるには、事業者にとって採算が成立する制度設計が不可欠である。そのために、まず現在発生している「社会的損失」の規模を3つの評価軸で定量化した。

表6. 再エネ出力抑制による社会的損失

評価フレーム単価月間損失年間損失
スポット市場価値(抑制時間帯)〜5円/kWh約29億円約340億円
化石燃料回避コスト(加重平均)〜11円/kWh約64億円約770億円
LNG変動費上限〜15円/kWh約87億円約1,050億円

制度設計のポイント

抑制時間帯のスポット価格はほぼゼロに張り付いているが、社会的には年間約770億円の「化石燃料回避コスト損失」が発生している。 この損失規模を踏まえると、補償単価30円/kWhの設計と調整力市場収入を組み合わせることで、蓄電池事業の投資回収期間を10〜13年に短縮できる。これは政府補助金に頼らず民間資金を誘導できる水準である。

シミュレーションC:原子力低出力運転

蓄電池導入には時間もコストもかかる。一方で、設備投資を一切ともなわず、制度変更のみで即時に効果を生む選択肢が存在する。それが原子力の低出力運転である。

表7. 原子力の低出力運転による抑制削減

シナリオ対象エリア原子力削減抑制削減(最大値)削減率
C0 現状(100%)0 MW0 MW0%
C1 全エリア70%全5エリア3,105 MW3,105 MW18.9%
C2 全エリア50%全5エリア5,175 MW5,175 MW31.4%
C3 標的70%(関西・中国・四国)3エリア1,971 MW1,971 MW12.0%

政策的含意

C1は設備投資不要・制度変更のみで実現できる。 「変動費がほぼゼロの太陽光・風力が存在する春季昼間に、あえて原子力を優先する」という現行の優先給電ルールには、経済合理性がない。 春季低需要期における原子力低出力運転を優先給電ルールに明記することで、追加コストなく即時に対応可能である。

4. 国際比較

再エネが増加する中、出力抑制をめぐる対応は国によって大きく異なる。以下は、ドイツ・英国・スペイン・日本の4ヵ国の補償原則と実績をまとめたものである。特に日本の「無補償」という方針は、国際的に見てもきわめて例外的なアプローチとなっている。

表8. 出力抑制補償制度の国際事例

補償原則年間補償費用特記事項
ドイツ全量補償(発電したとみなす原則)約700億円(2025年)リディスパッチ単価200€/MWh、立地誘導にも活用
英国限界損失補填(ROC・CfD損失補償)増加傾向強風日の家庭割引電力提供実験も開始
スペイン市場価値ベース部分補償変動系統料金で負担
日本無補償(FIT接続は原則)0円国際的に例外的な「無補償抑制」国

ドイツは「発電したとみなす全量補償」を原則として、2025年に約700億円を支払っている。注目すべき点は、この補償コストが「見える化」することで、系統投資への政治的圧力として機能していることである。この圧力が政策転換を促し、2024年4月には「抑制する代わりに使う(use instead of curtail)」という新しい考え方にもとづく制度試行案が規制当局に提出された。余剰電力を家庭や産業が割引価格で消費できる仕組みである。

英国では、制約コストの76%は火力発電の起動コスト、24%が風力補償というかたちで社会全体で負担している。あわせて、強風日に家庭が割引電力を使える実験も開始し、需要側からのアプローチも進めている。

VRE比率と出力抑制率の国際比較

VREの導入比率と実際の出力抑制率を国際比較すると、制度設計の違いが顕著に表れる。図4は、各国・地域の現状と対応の違いを示したものである。

各国・地域のVRE比率と出力抑制状況の詳細は以下の通り。

  • デンマーク
    • VRE比率は69%と非常に高いが、出力抑制は低水準に留まる。
    • 北欧諸国との強固な系統連系を活用することで、需給バランスを維持している。
  • スペイン・ドイツ
    • VRE比率は約43%、出力抑制率は3〜5%(ドイツの2024年実績は5%)である。
    • 抑制に対する補償制度が整っている。
  • 英国
    • VRE比率は35〜40%、出力抑制率は5〜10%(風力)であり、主にスコットランド地方の風力発電が要因となっている。
  • アイルランド
    • VRE比率は45〜50%に達し、出力抑制率も5〜15%と高めである。
    • 非同期電源(SNSP)の接続上限を引き上げるなど、技術的対策を進行中である。
  • 中国
    • 2024年時点でVRE比率18%、出力抑制率は3%未満。
    • 2012年当時は比率3%に対し抑制率16%であったが、短期間で劇的に改善している。
  • 日本(全国平均)
    • VRE比率は6%(2023年度)と諸外国に比べ低いが、出力抑制率(約1.8%)は急上昇傾向にある。
  • 日本(九州エリア)
    • 制御前のVRE比率は約18%。
    • 出力抑制率は3%(2023年度)から6%(2024年度見通し)で推移。2023年時点ではドイツの2倍以上の抑制率であり、かつ補償制度が存在しない。
  • 日本(東北エリア)
    • VRE比率は約19%。
    • 国内最大のVRE導入エリアであり、2025年度の出力抑制率は約2%に達する見通しである。

国際比較が示す構造的示唆

日本における制度設計の問題

日本全体ではVRE比率12.6%(ドイツの約3分の1)で年間抑制率は1.8%であるが、九州ではVRE比率18%(ドイツの約2分の1)にもかかわらず、2023年度の抑制率は8.3%に達した。2024年は6%に減少したものの、依然として高い水準である。VRE比率が低い段階でこれだけ高い抑制率を示すのは、制度設計の失敗が原因である。

中国の先行事例

中国は政策誘導と系統投資でVRE抑制率を大幅に削減した先行事例である。特に注目すべきは、2012年に「VRE比率3%・抑制率16%」であったが、2024年には「VRE比率18%・抑制率2.5%」に改善された軌跡である。VRE拡大とともに抑制を劇的に削減した背景には、年平均75億ドルのグリッド投資と制度整備があった。

他国における制度的対応

アイルランド(SNSP緩和)、カリフォルニア(EIM)、チリ(熱源電源最低要件引下げ)はいずれも「制度・運用の変更」により、大規模設備投資なしに対応している。

日本の将来リスク

2030年に日本のVRE比率が現在の2倍超(26~28%)に達した場合、現在の制度では壊滅的な抑制増大が生じる可能性がある。

5. 原子力稼働と出力抑制の因果関係:エリア横断の構造分析

2026年3月1日、東京電力エリアで「エリア初」の再エネ出力抑制が発生した。これにより、全国10電力管内すべてで抑制実績がそろった。ここで浮かび上がる構造的事実は、大型原発が再稼働しているエリアほど春季の出力抑制が拡大しているという相関である。

原発再稼働は再エネ抑制を誘発するか」という中心的問いのもと、本章では、第2~4章の横断的証拠(4月27日のスナップショット・北陸4月26日→4月27日の逸脱・国際比較)を原子力の観点から再整理し、「再稼働 → 下げ代喪失 → 再エネ抑制」という因果プロセスをエリア別・時系列で検証する。

優先給電ルールと原発の構造的位置づけ

優先給電ルール上、原子力は「長期固定電源」として扱われ、春季低需要期においても出力調整の対象外に置かれてきた。これは物理的特性ではなく制度選択である。

  • フランスEDFのPWRは負荷追従運転(70%~100%)を日常的に実施している。技術的には日本の軽水炉も同等の運転範囲が可能である。
  • 現行ルールでは、原子力・長期相対契約(電源Ⅲ)・石炭・一部LNGが「下げ代ゼロ」として扱われている。残余需要を再エネで埋めた後にあふれた分が抑制される構造となっている。
  • 原発1基(平均110万kW)が春季低需要期にフル出力で稼働すると、そのエリアの再エネ下げ代はおおむね1,000~1,100MW圧縮される。

この構造は2018年の九州・玄海/川内の再稼働以降、全国で順次顕在化している。以下、エリア別に時系列で検証する。

九州電力:先行事例としての抑制常態化

九州エリアは原発4基(玄海3・4号、川内1・2号、合計414万kW)のフル稼働下で、2018年以降、春季・秋季を中心に出力抑制が常態化している。

九州エリアの抑制実績(年間率・ISEP集計)

  • 2018年度:9%
  • 2019~2022年度:0~4.0%で推移
  • 2023年度:3%(過去最高ピーク)
  • 2024年度:2%(見込)
  • 2025年度:1%(見込)

瞬時最大値

2024年春特定日に、抑制前のVRE比率113.9%から54%まで抑制された。抑制制御率は46%に達した。

九州における構造的課題

九州の特徴は、3つの要因が重なっている点である。第一に原発フル稼働による下げ代の固定化、第二に需要規模の相対的小ささ(東京の約1/3)、第三に域外送電容量の制約(関門連系線)である。

2023年度のピーク抑制率8.3%は、同年度ドイツの4.0%の約2倍である。同じVRE水準にもかかわらず、九州はドイツより構造的に高い抑制率を示している。2024年度以降は連系線活用やオンライン化推進等の対策により低下傾向にあるが、ドイツ水準(3~4%)には依然として遠い状況である。

東北電力:女川2号機再稼働(2024年10月)以降

東北電力は日本最大の風力資源エリアでありながら、2024年10月29日の女川2号機(82.5万kW)再稼働以降、春季の風力・太陽光抑制が顕在化している。

2025年4月27日のスナップショット

11時30分時点のデータ

  • 風力抑制率:6%(発電量より抑制量が多い瞬時値)
  • 太陽光抑制率:5%

利用可能な下げ代(未使用)

  • LNG下げ代:932MW
  • 石炭下げ代:188MW

これらの下げ代が活用されていない状況である。

再稼働の影響

女川2号の再稼働分(825MW)は、4月27日時点の東北抑制総量の相当部分に匹敵する規模である。女川2号の再稼働前後での詳細な比較データは今後の検証課題であるが、再稼働のタイミングと抑制拡大の時期的一致は構造的な示唆として重要である。

中国電力:島根2号機再稼働(2024年12月)

島根2号機(82万kW)は2024年12月7日に再稼働している。中国エリアは人口・需要が比較的小さく、島根2号の再稼働は春季下げ代をほぼ全量消費している。

  • GW期間における運用実績:中国エリアは2025年4月のゴールデンウィーク期間、九州・四国と並んで日曜の石炭低水準維持を実現していた。これは島根2号再稼働後にもかかわらず、地域の運用努力が機能した事例として重要である。
  • 抑制量の増加傾向:再稼働前(2024年春)との比較では、再エネ抑制量が増加していることが定性的に観察される。定量的な前後比較の詳細は付録に委ねる。

関西電力:原発比率50%と需要地近接

関西電力は美浜3・高浜1~4・大飯3,4の計7基(約660万kW)を稼働させており、電力量ベースで原発比率50%前後という突出した構造を持っている。にもかかわらず、関西エリアの出力抑制は相対的に低水準にとどまっている。

抑制が低水準である理由

  • 需要地近接:大阪・神戸という大需要地と原発立地(若狭湾)が近接している。長距離送電損失と系統制約が少ない。
  • 太陽光導入量の相対的低さ:関西のVRE比率は九州・東北より低い。原発下げ代の制約が顕在化する時期がまだ来ていない。

この構造は「原発比率が高ければ抑制が少ないこと」を意味しない。むしろ「VRE導入量が増えた時に関西も九州・東北型の構造に移行する可能性」を示唆している。

2030年にVRE比率が現在の2倍(26~28%)に達した時の関西エリア抑制シミュレーションが今後必要である。

東京電力:柏崎刈羽6号機再稼働から3月1日初抑制までの6週間

2026年1月中旬、東京電力の柏崎刈羽6号機(135.6万kW)が再稼働した。その約6週間後の3月1日に、東電エリアで「エリア初」の出力制御(1,180MW)が実施された。

  • 2026年1月中旬:柏崎刈羽6号機再稼働(1,356MWが系統に投入)
  • 2026年2月:春季低需要期への移行・太陽光稼働時間の増加
  • 2026年3月1日(日)11:00~16:00:エリア初出力制御 1,180MW

→ 再稼働で増えた硬直電源容量(1,356MW)制御量(1,180MW)の規模相関はきわめて整合的である。

この3月1日の制御は物理的に不可避ではなかった。揚水残余力約3,800MW、LNG下げ代約1,248MWが未活用であり、前日計画の硬直性と揚水運用の保守性が決定的要因であった。

しかし制御を誘発したトリガーとしては、柏崎刈羽6号機の再稼働による下げ代圧縮がきわめて整合的である。再稼働がなければ、揚水発電・LNG火力の運用努力に不足があっても、1,180MW規模の余剰は発生しなかった可能性が高い。

相関構造の総合整理:3変数モデル

ここまで「原発再稼働は既存の再エネの出力抑制を拡大する」という因果関係を、全国の需要エリアで検証してきた。以上のエリア別検証を統合すると、春季出力抑制は以下の3変数でほぼ説明可能である。

抑制量 ≈ f(原発比率、VRE比率、春季低需要度)

ここで「原発比率」とは、エリアの総発電容量に占める稼働原発の容量比率(%)である。絶対値(MW)ではなく比率で捉えることで、エリア規模の違いを揃えた横断比較が可能となる。

この3変数構造は、図6のバブル図が示すように、原発比率とVRE比率の「両方が高い」領域(抑制顕在化ゾーン)でのみ抑制が大規模化する。

関西は原発比率が約20%と九州と同等に高いが、VRE比率が約8%と低いため、抑制は顕在化していない。一方、東北・東京は原発比率が相対的に低くても、VRE比率が上昇した時点で抑制が発現した。

原発稼働は抑制の必要条件でも十分条件でもない。しかしVRE比率が一定水準に達した時点で、原発比率が抑制量の規模を規定するスケーリング変数として機能する。

関西は現時点では例外に見えるが、VRE比率が九州・東北水準に達した瞬間に同じ構造に移行すると予想される。

月次実測データによる因果検証(2024年4月 vs 2025年4月)

ここまでの分析は、年間抑制率と設備容量ベースの原発比率というマクロな変数で構造を示した。本節では、一般送配電事業者9社のエリア需給実績CSV(30分値)を月次集計した実測データにより、より精緻な検証をおこなう。

春季抑制のピークである2024年4月と2025年4月の2時点を比較し、この1年間に進行した原発再稼働(女川2号機・島根2号機)の影響を直接観測する。

図7は2025年4月の月間発電量ベースでの3変数プロットである。月次で見ると九州の抑制率は16.7%(年間6.2%の2.7倍)に達し、東北 10.4%、四国 9.6%と続く。いずれも春季の低需要・高日射条件で、原発フル稼働と重なった結果である。

図8は同じ月(2024年4月と2025年4月)の1年間の変化を軌跡で示す。2024年4月時点では女川2号機・島根2号機ともに停止中であり、東北・中国エリアの原発比率は0%だった。2025年4月時点では両機とも稼働しており、東北で原発比率9.7%、中国で14.2%に上昇している。

表9. 2024年4月 → 2025年4月 抑制率変化(月間・発電量ベース)

東北5.4% → 10.4%(+5.0pt、悪化)原発 0 → 9.7%
九州9.1% → 16.7%(+7.6pt、悪化)原発ほぼ同じ、VRE+35%
四国3.9% → 9.6%(+5.6pt、悪化)原発同、VRE+11%
中国9.2% → 3.0%(-6.2pt、改善)原発 0 → 14.2% だが改善
関西4.8% → 3.0%(-1.8pt、改善)
北陸6.2% → 0.0%(-6.2pt、改善)

重要な発見として、原発再稼働が常に抑制悪化を招くわけではないことが明らかになった。中国電力エリアは島根2号機再稼働(原発比率0→14.2%)にもかかわらず、月次抑制率が9.2%から3.0%へと劇的に改善した。これは連系線活用率の向上オンライン代理制御の拡大揚水運用の最適化等の運用改善が、再稼働による下げ代圧縮を相殺した事例である。

逆に、東北・九州・四国では同期間に抑制が悪化した。東北は女川2号機再稼働が主因であり、九州はVRE導入量の35%増加が主因である。四国は同じくVRE増加と原発維持の組み合わせである。

この実測結果は、3変数モデルを修正的に精緻化する。「原発比率×VRE比率」のスケーリング効果は存在するが、それは運用改善によって相殺可能である中国電力の事例は、原発を止めずとも、運用努力だけで抑制を半減できることを実証した。同じ努力を九州・東北・四国でおこなえば、これらのエリアの抑制も大幅に削減できるはずである。

論争軸としての含意

本章の分析は、原発再稼働をめぐる従来の論争軸に実証的な第三の論点を追加する。

従来の論争軸

  • 安全性 vs 経済性・エネルギー安全保障
  • 気候変動対策としての「非化石電源」正当化

本章の追加論点

  • 再エネ抑制を通じた再エネ投資の逆進的抑圧

政府・電力会社の主張は「原子力と再エネは共存する非化石電源」である。しかし2026年3月1日の東電抑制は、既存の再エネ発電事業者の収益を原発再稼働が直接的に侵食するという構造的矛盾を可視化した。出力抑制は無補償であるため、抑制された再エネ事業者が実質的に原発再稼働のコストを負担している構造である。

この論点は、以下の政策判断に直接影響する。

  • 新規再エネ投資への影響:抑制リスクの高いエリア(九州・東北・今後の東京)での新規太陽光・風力への投資判断は、原発再稼働スケジュールに依存せざるを得ない。
  • 卒FIT世帯の逆潮流価値:原発再稼働エリアでは昼間逆潮流の価値が構造的に低下する。
  • 系統用蓄電池の収益モデル:原発下げ代不足を補う調整力としての蓄電池価値の再評価が必要である。

したがって、「春季低需要期の原子力低出力運転の制度化」は、単なる効率化のための提言ではなく、再エネ投資環境の整備既存再エネ事業者の財産権保護という観点から、優先的に検討すべき性質をもつ。

フランスEDFが日常的に実施している負荷追従運転(70%~100%)は、日本の軽水炉でも技術的に可能である。制度的不在が問題なのであって、物理的制約ではない。

6. 政策提言

ここまでの分析を踏まえ、以下の7項目を優先順位に従って提言する。1〜2は即時実施可能な制度変更、3〜4は短期課題への対応、5〜7は中期の構造的変革を実現するために必要な方策となっている。

提言 1. 前日計画の当日最適化を義務化する

再エネ実績が前日計画を超えた場合、ゲートクローズ後においても需給計画の再最適化を義務付ける。「当日に有利な条件が揃ったときは前日計画を上書きして再エネを最大活用する」という運用パラダイムへの転換を規則化する。追加設備投資は不要 — 運用ルールの変更だけで実現できる。

提言 2. 長期相対契約(電源Ⅲ)に再エネ優先条項を追加する

石炭発電との長期相対契約に「再エネ余剰時の下限出力緩和条項」を追加する。北陸電力の事例(2025年4月26日 → 4月27日の運用転換失敗)から、長期相対契約の下限義務が柔軟な運用を阻んでいる可能性が高い。新規契約では再エネ優先原則を法的に明確化する。

提言 3. 容量市場落札済み蓄電池の2026年度内稼働を確保する

落札済みでありながら稼働遅延している系統用蓄電池の早期稼働のため、アグリゲーター制度の簡素化・需給調整市場での収益モデル確立・FIP連携強化を優先整備する。1,000 MW稼働で月間抑制の21%、3,000 MW稼働で62%が削減できる。設備の追加調達は不要 — 既存契約の実行が最優先である。

提言 4. 出力抑制補償制度と蓄電池投資誘導を一体設計する

FIT再エネへの出力抑制補償(30円/kWh以上)と蓄電池の調整力市場収入を組み合わせ、事業回収10~13年を実現する。政策コストは年間700億円程度(回避コスト770億円以内)で社会的に正当化可能である。ドイツのリディスパッチ補償制度が参考モデルとなる。

提言 5. 春季低需要期の原子力低出力運転を制度化する

4~5月の低需要期に原子力を70%程度で運転することを優先給電ルールに明記する。C1シナリオで抑制の19%(3,105 MW)が回避可能である — 設備投資ゼロ・制度変更のみ。「変動費ほぼゼロの太陽光・風力が存在する春季昼間に原子力が優先される」現行慣行に経済合理性はない。

提言 6. 広域需給調整市場とメリットオーダー最適化を強化する

ゲートクローズ時間の短縮、ENTSO-E型エネルギーバランス市場の整備、連系線容量の動的最適活用を進める。東京電力の「受電専門エリア」構造(4.2 GW受電)を活用した広域最適化はさらなる抑制削減余地を有する。

提言 7. 再エネ優先給電ルールの法的実効性を確保する

電気事業法および系統運用ルールに「再エネの優先接続・優先給電」遵守義務を明確化し、違反時の行政的手段(改善命令等)を整備する。現行制度でも優先給電ルールは存在するが「下げ代の使い切り義務」と「当日再計画の義務」が欠如している。

提言 8. 電気温水器・エコキュートの昼間運転を制度化する

日本全国には給湯設備約2万MWが存在し、現在はすべて夜間稼働している。これを昼間(10~15時)にシフトすることで4,000~8,000 MWの新規昼間需要を創出できる。制度設計として、(1)TOU料金の義務設定、(2)遠隔制御の法的根拠整備、(3)新規機器に制御機能を義務付けることで対応する。投資不要・即効性大である。

提言 9. 家庭用蓄電池の普及加速と太陽光逆潮流スマート制御

ハワイ電力のSmart DERプログラムを参考に、日本での対応設計として(1)スマートインバーター義務化、(2)逆潮流時間帯料金制導入(昼間は無償/抑制、夜間は優遇)、(3)グリッドサービス対価制度、(4)卒FIT世帯への自動適用を実施する。これにより家庭用蓄電池が事実上の分散型調整力として系統に統合される。

結論

手遅れになる前に、今すぐ着手すべき「運用」の改革がある

2025年4月27日、午前11時30分、全国の需要72.5 GWに対し、太陽光は45 GWもの発電能力を持っていた。しかし、そのうち15.3 GWもの太陽光と1.1 GWの風力が、活用されることなく捨てられたのだ

この「再エネの廃棄」は、決して物理的な限界によるものではない。現場で起きていた事実は、以下の通りだ。

  • 眠れる蓄電池と火力の余力 揚水発電がフル稼働する傍ら、系統用蓄電池はわずか44 MWしか動いていなかった。さらに火力を最低出力まで絞り込めば、あと7 GWの受け入れが可能だったはずだ。
  • 燃料置換の怠慢 石炭からLNGへの切り替えを徹底するだけで、最大3 GWの抑制を回避できた計算になる。
  • 不可解な運用 北陸電力は、前日には161 MWまで下げていた石炭火力を、より条件の良かったはずの翌日に421 MWまでしか下げなかった。九州・中国・四国が低水準を維持する中、北陸の運用だけが逆行していた事実は重い。

これは特定の地域や季節の問題ではない。日本の電力システムが、いまだに「再エネ優先」という新時代のルールに適応できていない証左である。

「原発があるから再エネを捨てる」は言い訳に過ぎない

希望はある。2025年4月のデータによれば、中国電力は島根2号機の再稼働により原発比率が14.2%に上昇した。本来なら再エネ抑制が増える局面だが、運用の改善により、抑制率は前年の9.2%から3.0%へと劇的に改善した。

一方で九州(16.7%)や東北(10.4%)は悪化の一途をたどっている。「原発再稼働による圧力は、運用の工夫で相殺できる」ことを中国電力が証明した以上、他エリアにできない理由はないはずだ。

国際比較が突きつける冷酷な現実

日本のVRE比率は12.6%と、ドイツの3分の1に過ぎない。にもかかわらず、九州の年間抑制率はドイツの2倍を超える水準で推移している。 このまま2030年にVRE比率が2倍以上に高まれば、今の制度のままでは再エネを捨てる構造的な欠陥はさらに深刻化する。

改革のロードマップ:莫大な投資を待つ必要はない

制度を変えるだけで、数百〜数千MW規模の改善は今すぐにでも可能だ。

  • 即時:前日計画の当日最適化と、長期相対契約の柔軟化。これだけで設備投資なしに改善が進む。
  • 2026〜27年度:すでに落札済みの蓄電池(計4,000 MW)が順次稼働し、抑制の6割以上を解消できる。
  • 中期:原発の低出力運転を制度化すれば、さらに3,100 MW分の抑制を回避できる。これも投資は不要だ。

2025年春に捨てられた16.5 GWの電力、そして失われた770億円もの燃料回避コスト。これらはすべて「変革を先送りしたことによる損失」として記憶されるべきだ。

送電網の増強も必要だが、その完成を待つ必要はない。ルールを変え、運用を研ぎ澄ますだけで、今この瞬間からはじめられる改革がある。

補論

以下の補論は、本論の議論を補足する。

補論A. 東京電力 2026年3月1日 初回「出力制御」:不可避性の検証

A1. 事実関係

2026年3月1日(日曜日)、東京電力パワーグリッド(東電PG)は、エリア初となる需給バランス制約による「出力制御」を実施した。これにより、全国10電力管内すべてで出力制御の実績が出揃った。

制御は11:00〜16:00の5時間にわたり実施され、最大余剰電力の発生は12:00〜12:30に集中した。最大制御量は118万kW(1,180 MW)。当日のエリア需要は2,628万kWで、揚水運転が619万kW稼働していた一方、域外送電はゼロだった。供給力合計3,365万kWのうち再エネ出力は1,529万kWを占めていた。

A2. 不可避だったか:4つの視点から検証

(1)域外送電ゼロについて

東電は通常「受電専門エリア」であり、2025年4月27日には他エリアから4,200 MWを受電していた実績がある。3月1日の域外送電ゼロは、連系線を経由した送電余力がなかったことを意味する。日曜日で全国的な低需要日であったため、他エリアも余剰状態にあった可能性が高く、いわゆる「全国同時飽和」の状態だったと考えられる。ただし、公開データのみでは「物理的に不可能だったのか」「運用制約上、試みなかったのか」を判別することはできない。

(2)揚水の残余力について

東電管内の揚水設備容量は概ね1,000万kWであり、当日の使用量619万kWは稼働率62%に相当する。理論上の残余力は約3,800 MWとなり、今回の制御量1,180 MWの3.2倍に上る。ただし揚水運転は上池の水量や揚水ポンプの起動計画に依存するため、前日の計画段階で最大動員を組み込んでいなければ、当日の急増には対応できない点に留意が必要だ。

(3)LNG火力の下げ代について

東電PGは「火力の運転抑制を実施してもなお余剰が生じた」と説明しているが、具体的な出力は非公表である。2025年4月のCSVデータから推計される東電のLNG下げ代(月最小基準)は+1,248 MWであり、この水準まで出力を下げていれば、今回の制御量1,180 MWの大部分が不要だった可能性がある。

検証まとめ

以上の分析から、今回の出力制御を「物理的に完全に不可避だった」とは言えない。揚水残余力(約3,800 MW)とLNG下げ代(約1,248 MW)を合わせると、制御量1,180 MWの3倍超に相当する対応余地があった。前日計画の段階で揚水を最大動員し、LNG火力を月最小値まで絞っていれば、制御が不要だった可能性は高い。

政策的意味として重要なのは、国内最大の需要エリアである東電管内での初回抑制が、「出力制御は九州・西日本固有の問題だ」という従来の認識を決定的に覆した点にある。前日計画・揚水計画の当日最適化を制度として義務づけることが、全国全エリアで急務となった。

補論B. 公式施策との対比と残存ギャップ

B1. 公式施策パッケージの現状(系統WG・2023年12月取りまとめ)

現在の公式施策は以下のとおりである。

再エネのオンライン化推進は2021年以降概ね進展している。火力の最低出力を50%から30%へ引き下げる施策は、新設については2024年度中の適用が完了したが、既設については「努力目標」にとどまり、50%超の発電所が依然として多数を占める。

電源Ⅲ(調整電源)の稼働状況に関する情報公開は2023年12月から始まり、FIP+蓄電池の補助金倍増措置も2024年9月に決定されたが、制度設計はまだ進行中だ。

連系線増強(北海道→東北200万kW)は工事が進んでいるものの、完成は2030年代を見込む。優先給電ルールのFIT → FIP見直しは2024年8月から検討に入り、長期脱炭素電源オークション(蓄電池109万kW落札)は2026〜2029年度の稼働を予定している。

施策決定時期目標現在の状況
再エネオンライン化推進2021年〜全電源オンライン化概ね進展
火力最低出力 50%→30%(新設)2023年5月2024年度中適用新設は適用済み
火力最低出力 30%(既設・努力目標)2023年12月自主的取組50%超の発電所が依然多数
電源Ⅲ稼働状況の情報公開2023年12月系統WGで公表公表開始済み
FIP+蓄電池 補助金倍増2024年9月初年度分2倍制度設計中
連系線増強(マスタープラン)継続北海道→東北200万kW工事中・完成は2030年代
優先給電ルール見直し(FIT→FIP)2024年8月 検討2026年度変更検討中
長期脱炭素電源オークション(蓄電池)2024年1月 第1回109万kW落札2026〜2029年度稼働予定

B2. 本論考が示す発見と「残存ギャップ」

本論考の分析は、公式施策パッケージが手当てできていない大きなギャップを浮かび上がらせた。

本論考の発見回避可能量公式施策の対応ギャップの性質
蓄電池未稼働 (#7)〜3,000 MW(中期)長期脱炭素オークション施策はあるが稼働遅延
火力下げ代未使用 (#8)3,716 MW火力最低出力30%(努力目標)既存規程内で実現可能なのに未達
石炭→LNG置換 (#9/#10)5,747〜6,268 MW施策なし最大のギャップ(議題にすら上がっていない)
原子力低出力運転 (C1)3,105 MW施策なし発電事業者収益問題で議論回避
前日計画の当日最適化大きな余地ゲートクローズ短縮(検討中)義務化なし
出力抑制補償制度投資誘導効果施策なし投資インセンティブ欠如

蓄電池未稼働(#7)については、長期脱炭素オークションという施策は存在するが、稼働が遅延しており中期的な回避可能量は約3,000 MWと見込まれる。火力の下げ代未使用(#8)については、3,716 MWの回避余地があるにもかかわらず、「努力目標」の域を出ず、既存の規程内で実現できるはずの水準に達していない。

なかでも最大のギャップは、石炭 → LNG置換(#9/#10)だ。回避可能量は5,747〜6,268 MWに上るが、系統WGのどのパッケージにも明示的な施策が存在しない。2025年4月27日11:30時点でLNG設備余力は9社合計で+42,554 MWあり、追加投資を要さない純粋な運用判断で実現できる。にもかかわらず「施策パッケージに存在しない」という事実は、政策議論に空白があることを示している。

原子力の低出力運転(C1、3,105 MW)も施策がなく、発電事業者の収益問題を理由に議論が回避されている。前日計画の当日最適化についても義務化は進んでいない。

整理すると、現在の施策パッケージで対処できる回避量は年間1,500〜2,000 MW程度にすぎず、本論考が示す最大回避可能量6,268 MWとの差は4,000 MW以上に達する。この差を埋めるには、石炭 → LNG置換の運用ルール化と原子力の春季低出力運転制度化が不可欠だが、長期見通しシミュレーション(2024年12月)はこの2施策を試算の対象にすら含めていない。

HJKS一次データによる補足(2026年4月)

OCCTOユニット別発電実績の一次データ分析は、石炭の最低出力制約が「技術的に不可避」ではなく、(1)IPP契約型(例:鹿島2号)、(2)USC大型炉型(例:橘湾)、(3)小型旧型炉型、(4)製鉄所自家発型、(5)離島系統型の5類型に分類できることを示した。なかでも類型A(IPP、契約改定)と類型D(USC大型炉、変圧運転改造)への対応が特に優先度が高い。

補論C. 需要側シフトの可能性と制度設計

C1. 電気温水器・エコキュートの昼間シフト:規模と現状

出力制御の問題は「供給を絞る」アプローチだけでなく、「余剰時間帯に需要を創る」という需要側のアプローチでも解決できる。日本全国には、昼間へのシフトが可能な大規模な給湯設備が既に存在している。

9社合計(沖縄除く)の電気温水器・エコキュートの設備容量は、全台同時稼働時で約2,092万kW(20,920 MW)に上る。エリア別に見ると、九州(323万kW)・東京(483万kW)・関西(377万kW)に集中しており、再エネの余剰が多い九州・中国・四国でも合わせて634万kW以上が存在する。

現在の問題は、これらほぼ全台が「夜間電力プラン」(深夜23時〜翌朝7時)で稼働している点にある。春季晴天の昼間(10〜15時)は系統に再エネ余剰が発生しているにもかかわらず、給湯設備は動いていない。JEPXスポット価格は出力抑制発生時に0.01円/kWhまで低下することがあり、昼間に稼働できれば事実上タダ同然の電力でお湯を沸かせる。

電力会社エコキュート普及率電気温水器普及率合計消費電力(万kW)
北海道2.9%10.5%85
東北16.5%8.5%183
東京10.1%4.5%483
北陸23.2%10.7%64
中部18.1%8.0%266
関西12.6%8.4%377
中国24.3%13.2%200
四国29.8%12.7%111
九州21.8%12.0%323
9社合計(沖縄除く)2,092(20,920 MW)
出所:総務省国勢調査2020年・環境省令和3年度家庭部門CO2排出実態統計調査(2023年3月)。エコキュート1kW・電気温水器3kWとして推計。

C2. 昼間シフトによる需要創出ポテンシャル

全台が同時に昼間稼働するわけではないが、適切なTOU料金設計により段階的な昼間需要の創出が可能だ。

近期(〜2028年)の新設義務化だけでも年間500〜1,000 MWの昼間需要増が見込まれ、出力制御を3〜6%/年削減できる。中期(〜2030年)に既設の30%が移行すれば約6,000 MW(37%削減)、長期(〜2035年)に50%が移行すれば約10,000 MW(61%削減)となる。九州・四国・中国の3エリアだけで50%が移行した場合でも約4,100 MWとなり、3エリアの年間抑制をほぼ解消できる水準だ。

重要なのは、この移行に設備更新が不要な点だ。エコキュートはダイキン・パナソニック・三菱・東芝がすでに「昼間シフト機能」を搭載しており、東京電力は「エコキュート昼シフトチャレンジ」として任意参加の試行を実施中である。パナソニックは2024年10月に「日射量シフト機能付きおひさまエコキュート」を発売し、翌日の日射量予報と連動して自動的に沸き上げ時間をシフトする機能を実現した。これを全国で制度化すれば、追加投資なしに数千MWの昼間需要が創出できる。

C3. 制度設計の要点

制度設計には、主に以下の4点が必要となる。

第一はTOU(時間帯別)料金の整備である。抑制時間帯(10〜15時)を昼間最安料金に設定し、既存の深夜料金プランの昼間単価を引き下げる。スポット連動型(0.01円/kWh)の自動適用メニューの創設も有効だ。

第二はスマートメーター経由の需要応答である。一般送配電事業者が出力抑制を予測した前日に給湯器へ自動起動指令を送るシステムを構築する。現在の発電側オンライン制御と同様の仕組みを需要側にも適用するイメージだ。

第三は新規設置の義務化である。2026年度以降に設置するエコキュート・電気温水器に「スマート昼間シフト機能」と「スマートメーター連携」を義務付け、既設については5年の移行期間を設けて自主移行を促す。

第四は電気温水器への特段の対応である。エコキュートと異なり電気温水器は1台あたり3kWと消費電力が大きく、中国・四国・九州では全台の約半数が電気温水器(普及率12〜13%)である。これを昼間シフトするだけで西日本3エリアの出力制御を大幅に削減できる。

C4. ハワイ電力(HECO)モデル:スマート逆潮流制御の先進事例

参考事例として、ハワイ電力(HECO)のSmart DERプログラムがある。HECOは再エネ比率がきわめて高い離島系統(オアフ島38%超、ビッグアイランド60%超)を抱えており、2024年4月に全面移行したこのプログラムが示す考え方は日本にも示唆が大きい。

「Smart Renewable Energy Export」では、太陽光+蓄電池の組み合わせで昼間(9〜16時)に充電し夕方(16〜翌9時)に逆潮流するよう設計しており、昼間の逆潮流には補償を付けないことで自家消費を自然に促している。「CGS+(Customer Grid-Supply Plus)」では、系統緊急時に系統運用者がリモートで全接続住宅の太陽光を一括遮断できる仕組みを持つ。「BYOD Plus」では蓄電池設置世帯に前払いのインセンティブを支給し、TOU「Shift and Save」では夕方〜夜間の高料金帯を避けて昼間に使うと節約になる料金体系を整えている。

日本でこの型の制度を設計する際の要点は3つある。2015年以降に設置された太陽光にはスマートインバーターが搭載済みの場合が多く、ソフトウェア更新で系統制御性を付与できる点が一つ目だ。二つ目は、卒FIT世帯(2025年度末で累計70万世帯超)が売電単価7〜8円/kWhに下落しており、「昼間逆潮流の補償を下げ、夕方放電に補償を付ける」設計だけで自然に昼間蓄電・夕方放電へ誘導できる点だ。三つ目は、FIP制度への移行促進と組み合わせることで、家庭用蓄電池が分散型調整力として系統に統合されることだ。

需要シフト + スマート逆潮流の統合効果

以上の施策を組み合わせた2030年代の統合効果は次のように見積もれる。

電気温水器・エコキュートの昼間シフト(既設の50%移行)で約10,000 MWの昼間需要が創出される。家庭用蓄電池のSmart DER型普及が2030年に数百万台×5kWhに達すれば、充電分として1,000〜3,000 MWの吸収が可能だ。太陽光の逆潮流をスマート制御することで昼間の過剰系統注入を抑制し、自家消費優先へ転換できる。

これらを合わせると、需要シフト+蓄電池+逆潮流制御で出力制御の9割以上を回避できる可能性がある。補論Bで示した供給側施策(最大6,268 MW、約38%相当)と需要側施策(最大約10,000 MW)を両輪で進めることで、出力制御の全量回避が視野に入ってくる。

付録:データ出典

お問い合わせ

本報告書に関するお問い合わせはこちらのフォームからお願いいたします。

  • 1
    IEA “Renewables 2025” 2025.
  • 2
    環境エネルギー政策研究所「2024年(暦年)の自然エネルギー電力の割合」2025年6月.