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ISEP所長メッセージ「フクシマから新しい世界へ」

3.11東日本大震災・福島第一原発事故から8周年にあたって

「3.11」から8年となる本日、東日本大震災および福島第一原発事故の犠牲になり失われた人々とその遺族の方々に対して、まずはあらためて深く哀悼の意を表します。

今年1月、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は「新しい世界」と題する報告を公表しました。自然エネルギー、とくに太陽光発電と風力発電の著しい普及によって従来からの「世界地図」とは根本的に異なる、新しい「21世紀のエネルギー地政学」をもたらす、という主張です。

昨(2018)年、太陽光発電は世界全体で前年比10%増となる109GWが設置され、累積で500GWを越えました。風力発電は前年と同水準の50GW強・累積で600GWに達し、前年比63%増・2百万台が販売された電気自動車(プラグインハイブリッド車を含む)と併せて、現在進行中のエネルギー大転換の主役を担う「3本柱」は引き続き、市場拡大を続けています。

自然エネルギーの特徴は、第一に、特定の国や地域に集中する化石燃料とは異なり、あらゆる国・地域で利用できること、第二に、枯渇性資源(ストック)の化石燃料に対して、太陽エネルギーは無限かつ無尽蔵の「フロー」であること、第三に、分散型で利用できるためエネルギーの民主化が進むこと、そして第四に、限界費用(燃料費)がゼロである上に、技術学習効果によって初期コストも低減し変化が加速してゆくことです。したがって、今生じているエネルギー転換は、人工知能や他の様々な要因と相まって、21世紀のエネルギー地政学を一変させようとしています。

化石燃料への依存度が高く、かつ高い水準の自然エネルギー技術を持つ日本は、この「21世紀のエネルギー地政学」で、もっとも大きな恩恵を期待できる国であるにも関わらず、それに背を向けています。原発を「重要なベースロード電源」として、国家ぐるみで輸出しようとしたものの、今年1月に日立製作所が3千億円の損失を計上して英国での原発建設を断念し、現政権が進めてきた「原発輸出政策」は全滅となり総崩れとなりました。昨年10月に、九州電力は太陽光発電の出力抑制を開始する「第2次九電ショック」に踏み切りました。また、国の放射線基準にも参照された「早野・宮崎論文」は、内容も方法もデタラメであると批判されました。これは、厚労省による「毎月勤労統計調査」の偽造や、GDPの水増し操作疑惑まで指摘され、日常茶飯事となった公文書偽造と併せて、もはや日本という国家や社会の「底」が抜けつつあるようです。

こうした日本の中で福島県・富岡町では、昨年4月に農民・地域主導では世界最大級となる33MWの「富岡復興ソーラー」が竣工し、飯舘村で営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)を中心に、分散型の太陽光発電が広がるなど、福島のあちらこちらで、自然エネルギーを軸とする新しい挑戦が始まっています。福島は、地域から「新しい世界」を切り開くエネルギー大転換の起点の一つになれる可能性があります。

2018年3月11日
認定NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)
所長 飯田哲也