ホルムズ海峡危機で日本の電気料金はどうなるか?
2026年4月2日
ホルムズ海峡をめぐる緊張が高まるなか、日本の家庭にとって切実なのは「電気料金はいくら上がるのか」という家計への影響である。本稿ではホルムズ海峡危機を3つのシナリオで想定し、東京電力・関西電力・九州電力の家庭用電気料金への影響を定量的に分析する。
飯田哲也(環境エネルギー政策研究所 所長)
要旨
本論考は、ホルムズ海峡危機を3つのシナリオ(短期部分封鎖・中期実質封鎖・長期全面危機)で想定し、東京電力・関西電力・九州電力の家庭用電気料金への影響を構造的に分析する。分析の結果、以下の3点をを定量的に示した。
- 化石燃料依存度が料金変動の決定的変数であること
- 再エネ賦課金が化石燃料高騰時に自動的に低下し「家計の安全保障保険」として機能すること
- 関西・九州電力の料金安定性を「原発の効果」と読むのは構造的に誤りであること
とりわけ、原発の計画外停止リスク、ウランのサプライチェーン脆弱性、そして展開速度における再エネの圧倒的優位を踏まえ、化石燃料依存度を「最速で」下げる経路としての再エネ+蓄電池の大量展開を提言する。
キーワード:ホルムズ海峡、電気料金、化石燃料依存度、再エネ賦課金、回避可能原価、燃料費調整制度、原子力リスク、ディスパッチャブル・ソーラー
1. 問題の所在
2025年後半から2026年にかけて、ホルムズ海峡をめぐる地政学的緊張が断続的に高まっている。日本のLNG輸入の約2割、原油輸入の約8割がホルムズ海峡を経由しており、同海峡の封鎖は日本のエネルギー安全保障にとってもっとも直接的な脅威のひとつである。
エネルギー安全保障の議論は往々にして「供給途絶」のリスクに焦点が当たるが、一般家庭にとってより切実なのは「電気料金がいくら上がるのか」という家計への影響である。本論考は、この問いに定量的に答えることを目的とする。
ただし、単なる料金試算にとどまらない。分析の過程で浮かび上がった3つの構造的発見 —— 化石燃料依存度と料金感応度の明確な相関、再エネ賦課金の「逆説的保険機能」、そして「原発が料金を安定させる」という言説の不完全さ —— は、日本のエネルギー政策の方向性に関わる本質的な論点を提起する。
以下、第2節でシナリオ設定と分析手法を示し、第3節で基本的な分析結果を提示する。第4節では再エネ賦課金の保険機能を掘り下げ、第5節で「原発が料金を下げた」というフレーミングへの構造的反論を展開する。第6節で蓄電池アービトラージの経済性変化を論じ、第7節で政策的含意と提言を述べる。
2. シナリオ設定と分析手法
2.1 シナリオ定義
ホルムズ海峡危機の深度と期間に応じて、以下の3段階のシナリオを設定した。基準ケースは2025年度の実勢価格をベースとする。
- S1(短期・部分封鎖):LNGスポット +50%(→ 21〜24$/MMBtu)、原油 110$/bbl、一般石炭 +20%。想定期間1〜2ヶ月で正常化。JEPX平均 18〜22円/kWh。
- S2(中期・実質封鎖):LNGスポット +120%(→ 31〜35$)、原油 140$/bbl、一般石炭 +50%。備蓄取崩し開始。JEPX平均 25〜35円/kWh、ピーク 50円超。料金影響 3〜6ヶ月継続。
- S3(長期・全面危機):LNGスポット +200%超(→ 45〜60$)、原油 180$/bbl、一般石炭 +80%。石炭代替も港湾能力で制約。JEPX平均 40〜60円/kWh、ピーク 100円超。料金影響 6〜12ヶ月以上。
2.2 分析対象
東京電力EP、関西電力、九州電力の3電力会社について、規制料金(従量電灯B/A)ベースで標準家庭(30A契約、月間260kWh)の月額電気料金を試算する。3社の選定理由は、電源構成の化石燃料依存度が大きく異なることにある —— 東京電力EP(72%)、関西電力(38%)、九州電力(25%)。この構成の差が料金影響の差に直結するかどうかが、本分析の核心的問いである。
2.3 料金構造モデル
電気料金を以下の5構成要素に分解し、各シナリオでの変動を個別に推計する。
- 基本料金:契約アンペアに応じた固定額。シナリオ間で不変。
- 電力量料金:3段階料金の加重平均単価。規制料金の場合は認可上限制約あり。
- 燃料費調整額:貿易統計ベースの3ヶ月平均燃料価格を2ヶ月ラグで反映。規制料金には上限(基準燃料価格の5倍)あり。超過分は電力会社の逆ざやとなる。
- 再エネ賦課金:(FIT/FIP買取費用 − 回避可能原価)÷ 販売電力量。回避可能原価はJEPXエリアプライスに連動するため、化石燃料高騰 → JEPX上昇 → 回避可能原価増 → 賦課金低下という自動安定化メカニズムが作用する。2025年度単価 98円/kWhを基準とする。
- 託送料金:レベニューキャップ制により短期的には固定。
為替レートは 150円/ドルを前提とする。燃料費調整単価の算定においては、各社の電源構成におけるLNG・石炭・石油の比率で加重平均し、化石燃料依存度を感応度パラメータとして反映した。
3. 基本的な分析結果
3.1 シナリオ別・電力会社別の月額電気料金
表1:シナリオ別・電力会社別の月額電気料金(円/月、260kWh)
| 化石燃料 依存度 | 基準 | S1:短期 | S2:中期 | S3:長期 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 東京電力EP | 72% | 12,746 | 14,322 | 14,062 | 13,543 |
| 関西電力 | 38% | 10,103 | 10,028 | 9,768 | 9,249 |
| 九州電力 | 25% | 9,259 | 9,935 | 9,675 | 9,156 |
| 基準比変動率 | — | ||||
| 東京電力EP | — | +12.4% | +10.3% | +6.3% | |
| 関西電力 | — | -0.7% | -3.3% | -8.5% | |
| 九州電力 | — | +7.3% | +4.5% | -1.1% |
表1から2つの構造的パターンが読み取れる。
第一に、東京電力のみがすべてのシナリオで料金上昇を示し、関西電力と九州電力はS2以降で料金低下に転じる。特にS3では、東京電力が +6.3%(+797円/月)なのに対し、関西電力は -8.5%(-854円/月)、九州電力は -1.1%(-103円/月)と、明確な分岐が生じる。
第二に、この分岐は化石燃料依存度と強く相関する。東京電力(72%)→ 関西電力(38%)→ 九州電力(25%)の順に化石燃料依存度が下がり、S3時の料金変動もまた上昇 → 低下へと転じる。この相関は偶然ではなく、以下に示す構造的メカニズムに基づく。
3.2 料金低下のメカニズム:二重の防護構造
化石燃料依存度が低い電力会社において料金が「下がる」現象は、2つの制度的メカニズムの複合効果として説明できる。
(A)燃料費調整の上限制度。規制料金には燃調上限が設けられており、燃料価格が基準の1.5倍を超えると調整単価が頭打ちになる。化石燃料依存度が低い関電・九電では、上限到達時の燃調上昇幅そのものが小さい。
(B)再エネ賦課金の自動安定化。後述する通り、化石燃料高騰 → JEPX上昇 → 回避可能原価増 → 賦課金低下というメカニズムにより、すべての電力会社で一律に賦課金が低下する。化石燃料依存度が低い会社では、(A)の燃調上昇幅が小さいため、(B)の賦課金低下効果が相対的に大きくなり、純効果としてマイナス(料金低下)に振れる。
この構造は、化石燃料依存度の高低が、危機耐性の決定的な分岐点であることを意味する。
4. 再エネ賦課金の「安全保障保険」機能
4.1 メカニズムの定量的検証
再エネ賦課金の算定式を改めて確認する。
賦課金単価 =(FIT/FIP買取費用 − 回避可能原価)÷ 販売電力量
ここで回避可能原価とは、「再エネ電力を調達しなかった場合に、その電力量を火力発電等で賄うために要したであろう費用」であり、JEPX市場価格に連動する。化石燃料高騰は、この回避可能原価を押し上げ、結果として賦課金の分子(買取費用 − 回避可能原価)を縮小させる。
2023年度の実績がこのメカニズムの実証例である。ロシア・ウクライナ戦争に起因する燃料高騰でJEPXが急騰し、回避可能原価が増大した結果、再エネ賦課金は 1.40円/kWh まで急低下した。その後、燃料価格が落ち着くと賦課金は 3.49円/kWh(2024年度)→ 3.98円/kWh(2025年度)→ 4.18円/kWh(2026年度)と再上昇している。
表2:シナリオ別の再エネ賦課金と相殺効果
| シナリオ | JEPX平均 | 賦課金単価 | 月額軽減 | 年間効果 |
|---|---|---|---|---|
| 基準 | 13円/kWh | 3.98円/kWh | — | — |
| S1: 短期封鎖 | 20円/kWh | 3.46円/kWh | -136円 | -1,632円 |
| S2: 中期封鎖 | 30円/kWh | 2.46円/kWh | -396円 | -4,752円 |
| S3: 長期全面危機 | 50円/kWh | 0.46円/kWh | -915円 | -10,980円 |
S3では賦課金が 3.98円/kWh → 0.46円/kWh へ約88%低下し、月額915円(年間約11,000円)の家計保護効果が生じる。この効果は電力会社を問わず全国一律であり、化石燃料を一切使わない電力を購入している消費者であっても、系統全体の「保険」として機能する。
4.2 「コスト」から「保険料」へのフレーミング転換
再エネ賦課金は国民的に「電気料金を押し上げるコスト」として認識されている。しかし本分析は、賦課金が化石燃料リスクに対する自動ヘッジ機能を内蔵していることを示す。化石燃料が高騰する局面 —— すなわち消費者がもっとも苦しい局面 —— で、賦課金が自動的に低下して家計を保護する。これは保険の本質そのものである。
この構造的理解は、再エネ賦課金をめぐる国民的議論を根本的に転換しうる。賦課金の負担増(2026年度 4.18円/kWh)に対する批判は、「保険料が上がった」のではなく、「化石燃料が安いから保険の出番がなかった(=平時のコストが高く見える)」と理解すべきである。
4.3 制度設計の課題:タイムラグ問題
ただし重要な制約がある。再エネ賦課金の改定は年1回(毎年3月決定 → 5月適用)であり、危機が年度途中に発生した場合、相殺効果が料金に反映されるまで最大1年のラグが生じる。この「保険機能」を実効化するためには、賦課金の四半期改定や、市場価格連動型の動的調整メカニズムの導入が制度設計上の課題となる。
5. 「原発が料金を下げた」は正しいか
本分析の結果は、「原子力比率が高い関西・九州電力の料金が安定している → 原発を推進すべき」という議論に利用される可能性がある。本節では、この解釈が構造的に不完全であり、政策的に危険なミスリードである理由を、3つの補強分析で示す。
5.1 論点1:原発計画外停止の複合シナリオ ——「条件付き安定」の脆弱性
表1の結果は、すべての原発が正常に稼働し続けるという前提条件の下でのみ成立する。この前提の脆弱性を検証するため、ホルムズ危機と原発計画外停止が同時に発生した複合シナリオを試算した。
表3:ホルムズ危機 × 原発計画外停止の複合シナリオ
| 通常時 化石依存度 | 原発停止時 化石依存度 | S2時 月額追加 | S3時 月額追加 |
|
|---|---|---|---|---|
| 東京電力EP | 72% | 72%(不変) | ±0円 | ±0円 |
| 関西電力 | 38% | 80% | +2,210円 | +3,500円 |
| 九州電力 | 25% | 73% | +2,652円 | +4,200円 |
原発が停止した場合、関西電力の実質化石燃料依存度は 38% → 80% に、九州電力は 25% → 73% に跳ね上がり、いずれも東京電力(72%)と同等かそれ以上の脆弱性に陥る。S2時の追加負担は月額2,000〜2,700円に達し、表1で示された「関電・九電の優位」は完全に消失する。
これは仮想のシナリオではない。2023年に関西電力の高浜4号機が蒸気発生器細管の損傷により長期停止した実績がある。2011年の福島事故後には全基停止が約2年間続いた。原子力は「動いているときの安定」と「止まったときの脆弱性」のトレードオフ構造を不可避的に内包する。この「止まるリスク」を織り込まずに原子力の料金安定効果を論じることは、金融におけるテイルリスクの無視に等しい。
5.2 論点2:ウランのサプライチェーン脆弱性 ——「もう一つのチョークポイント」
ホルムズ海峡は化石燃料のチョークポイントであるが、原子力にも固有のサプライチェーン脆弱性が存在する。日本のウラン調達先としてカザフスタンが約40%を占め、同国はロシアの強い政治的・経済的影響圏にある。ホルムズ危機がより広域の地政学的緊張 —— たとえば中露の戦略的連携の深化 —— に波及した場合、ウラン供給にも途絶リスクが生じる。
さらに、世界のウラン濃縮能力の約40%をロシアのロスアトムが占めるという構造的な集中リスクも存在する。米国ですら2024年にロシア産濃縮ウランの輸入禁止法を成立させたものの、代替調達先の確保には時間を要している。
原子力は化石燃料とは異なるが、「もうひとつの輸入依存電源」という本質において、エネルギー安全保障上の脆弱性から完全には自由でない。
5.3 論点3:化石燃料依存度を下げる「速度」 —— 再エネの圧倒的優位
本分析の核心的政策含意は、「化石燃料依存度を下げること」そのものが重要であり、その手段の選択は経済合理性と展開速度で判断すべきということである。
表4:化石燃料依存度を下げる手段の比較
| 手段 | リードタイム | コスト傾向 | 燃料リスク | 展開の確実性 |
|---|---|---|---|---|
| 太陽光+蓄電池 | 6ヶ月〜2年 | 急降下中 | なし | 高い(市場原理で自律拡大) |
| 陸上風力 | 2〜4年 | 低下傾向 | なし | 中程度(アセスが律速) |
| 原子力(再稼働) | 3〜5年 | 上昇傾向 | ウラン輸入依存 | 低い(審査+地元同意) |
| 原子力(新増設) | 15〜20年超 | 大幅超過 | 同上 | 極めて低い(世界的に難航) |
太陽光+蓄電池は6ヶ月〜2年で大量展開が可能であり、コストはSカーブ上の急降下フェーズにある。BNEFによると、リチウムイオン電池パック価格は 2024年に$92/kWh まで低下し、さらなる低下が見込まれる。一方、原子力の既設再稼働は規制審査と地元同意に3〜5年を要し、新増設は世界的にコスト超過と工期遅延が常態化しており、15〜20年以上を要する。
ホルムズ危機のような緊急事態に「今すぐ」対応できる手段として、太陽光+蓄電池の大量展開は原子力に対して圧倒的な速度優位を持つ。原発の新増設を待つ時間的余裕は、地政学的リスクの不確実性を考えれば、存在しない。
5.4 九州電力の「本当の強み」の構造分析
九州電力がもっとも安定した料金構造を示す理由を、改めて精緻に分析する。九州電力の化石燃料依存度 25% は、原子力 48% のみならず、再エネ(主に太陽光)22%との組合せによって実現している。この「原子力+再エネ」のハイブリッド構造が重要である。
昼間は太陽光が大量の安価な電力を供給し、JEPXでネガティブプライスが出現するほどである(九州電力管内では出力抑制が常態化している事実がこれを示す)。夜間は原子力がベースを担う。この時間帯的な補完関係が、化石燃料への依存を構造的に最小化している。
ここで思考実験として、仮に九州電力の原子力48%を太陽光+蓄電池で置き換えた場合を考える。系統用蓄電池が大量に導入されれば、昼間の太陽光余剰電力を夕方〜夜間にシフトする「ディスパッチャブル・ソーラー」が成立する。この場合、化石燃料依存度は原子力ありの場合と同等(あるいはそれ以下)に維持でき、かつ計画外停止リスクもウラン供給リスクも解消される。
つまり、九州電力の構造的優位は「原子力があるから」ではなく「化石燃料に頼らない電源構成を持っているから」であり、その最速・最安・最確実な実現手段は再エネ+蓄電池の大量展開である。
6. 蓄電池アービトラージと市場構造の変化
6.1 昼夜スプレッドの拡大
ホルムズ危機はJEPXの価格ボラティリティを劇的に拡大させる。昼間は太陽光の余剰により低価格(ネガティブプライスを含む)が維持される一方、夕方〜夜間はLNG火力の限界費用上昇により価格が急騰する。この昼夜スプレッドの拡大は、蓄電池のアービトラージ収益を直接的に押し上げる。
表5:蓄電池アービトラージの経済性変化
| シナリオ | 昼夜スプレッド | 年間アービトラージ | 投資回収年数(10kWh) |
|---|---|---|---|
| 基準 | 15.6円/kWh | 51,246円 | 39.0年 |
| S1: 短期封鎖 | 24.0円/kWh | 78,840円 | 25.4年 |
| S2: 中期封鎖 | 36.0円/kWh | 118,260円 | 16.9年 |
| S3: 長期全面危機 | 60.0円/kWh | 197,100円 | 10.1年 |
基準ケースの昼夜スプレッド 15.6円/kWh ではアービトラージ単独での投資回収は困難(39年)だが、S3の60円/kWhでは10.1年まで短縮され、経済的な投資対象となる。これは蓄電池が「防災設備」から「収益資産」に転換する分岐点を意味する。
6.2 構造的含意:ディスパッチャブル・ソーラーの経済的合理性
スプレッド拡大は、太陽光+蓄電池の組合せ(ディスパッチャブル・ソーラー)の経済的合理性を根本的に変える。昼間の安価な太陽光電力を蓄電池に貯蔵し、夕方〜夜間の高価格帯に放電するビジネスモデルが、危機の長期化によって自律的に成立する。
これは危機が自らの解決策を経済的に生み出すという構造を意味する。化石燃料の高騰が蓄電池投資のインセンティブを創出し、蓄電池の普及が化石燃料依存度を低下させ、次の危機への耐性を高める。このポジティブ・フィードバックループは、政策的介入によって加速させるべき構造である。
7. 政策的含意と提言
7.1 中核的命題
本分析から導かれる中核的命題は以下の通りである。
「化石燃料依存度を下げること」が、家計を地政学的リスクから守る最も確実な構造的手段である。そして、それを最速で実現する経路は、再エネ+蓄電池の大量展開である。
この命題は、原子力の短期的な料金安定効果を否定するものではない。すでに稼働している原発が、現時点で化石燃料依存度を下げるうえで一定の役割を果たしていることは事実である。しかし、「だから原発を増やすべき」という飛躍は、(1) 計画外停止の複合リスク、(2) ウランの供給リスク、(3) 展開速度の決定的な劣位、(4) コストの上昇トレンド —— を無視した議論であり、構造的に誤りである。
7.2 短期的提言(1〜2年)
- 住宅用太陽光+蓄電池の緊急大量導入:補助金の倍増、建築基準法との整合的な規制緩和、金融機関によるグリーンローンの拡充を組み合わせ、年間100万件規模の導入を目指す。
- 系統用蓄電池の入札加速:オーストラリアAEMOの「緊急蓄電池調達」モデルを参照し、2GW/4GWh規模の系統用蓄電池を2年以内に確保する。
- デマンドレスポンスの本格稼働:VPP(仮想発電所)とネガワット取引を即時拡大し、需要側フレキシビリティを危機対応の「第一防衛線」と位置づける。
- 再エネ賦課金の迅速反映メカニズム:現行の年次改定を四半期改定に移行し、保険機能のタイムラグを最小化する制度改正を行う。
7.3 中期的提言(3〜5年)
- 優先給電ルールの抜本改革:現行制度では火力を50%まで残して再エネを無制限に抑制する「合法的な再エネ排除装置」が構造化されている。これを逆転させ、再エネを最優先、火力を最終手段とするメリットオーダーを確立する。
- 容量市場の再設計:現行の容量市場は事実上の化石燃料補助金として機能しており、化石燃料ロックインを強化している。蓄電池・デマンドレスポンスの適正評価と、化石燃料電源の段階的排除を制度化する。
- 配電網レベルの分散型エネルギーシステム:地域マイクログリッドの構築により、系統全体への依存度を下げ、危機時の局所的なレジリエンスを確保する。
7.4 長期ビジョン:Ei革命と構造的脱却
本分析は、「Ei革命」(Electricity × Intelligence)の中核命題を定量的に裏付ける。すなわち、太陽光+蓄電池を中心とする分散型電力システムは、単なる脱炭素の手段ではなく、化石燃料リスクからの構造的脱却手段であり、地政学的危機に対するもっとも効果的な「家計の安全保障保険」である。
ホルムズ海峡危機は、この構造転換の緊急性を可視化する歴史的契機である。危機を「備蓄の積み増し」や「原発再稼働」といった旧来の対症療法で乗り切ろうとするのではなく、化石燃料依存そのものを不可逆的に解消する構造的処方箋として、再エネ+蓄電池+需要側フレキシビリティの大量展開を加速すべきである。
日本のエネルギー安全保障の真の意味での確立は、輸入依存からの脱却 —— すなわち、太陽光・風力・蓄電池という「燃料費ゼロの国産エネルギー」への構造転換 —— によってのみ実現する。
注記
本試算はマクロ的な構造分析であり、実際の料金改定は経済産業省の認可プロセスを経る。以下に主要な前提条件と限界を記す。
- 為替レート:150円/ドルを前提とする。10円の円安により月額 200〜400円の追加上昇圧力が生じる。
- 規制料金(従量電灯B/A)をベースとする。自由料金プランは燃調上限がないため、危機時の料金影響はさらに大きい。
- 燃料費調整額は3ヶ月平均 → 2ヶ月ラグで反映されるため、実際の家計影響には時間差がある。
- 再エネ賦課金の相殺効果は翌年度の賦課金単価改定(毎年3月決定 → 5月適用)で反映され、最大1年のタイムラグがある。
- 電源構成は2024年度実績の概算値。季節変動・計画外停止・定期検査による変動は考慮していない。
- JEPX価格推計は構造モデルによるものであり、実際の価格形成における投機的行動やアンシラリーサービス市場との相互作用は考慮していない。
- 規制料金の上限超過分は電力会社の逆ざや(経営損失)となり、長期化すれば再値上げ申請に至る可能性がある。本試算の「料金」はこの遅延値上げリスクを含まない。