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【イベント】自治体から始めるエネルギーのグリーン購入

PDFバージョン(23頁)の議事録はこちら

以下、敬称略。当日プレゼン資料(PDF)は各発表者の発言の最初に配置。

主催者挨拶

  東京都環境局長 村山 寛司
講演

「地方自治体から始めるエネルギーのグリーン購入の可能性」(PDF)
  NPO法人環境エネルギー政策研究所所長 飯田 哲也 

講演

「東京都における電気のグリーン購入」(PDF)
  東京都環境局副参事 小原 昌

パネルディスカッション

自治体におけるグリーンエネルギーの利用拡大に向けて

「佐賀県新エネルギー導入戦略的行動計画」(PDF)
  佐賀県くらし環境本部環境課長
  樋口博信氏

「新しい中野をつくる10か年計画 ~地球温暖化防止戦略~」(PDF)
  中野区区民生活部環境と暮らし担当課長
  納谷光和氏

「福島県新エネルギー事業の概要」(PDF)
  福島県企画調整部地域づくり領域エネルギーグループ
  畠利行氏

「環境エネルギー政策 横浜からの取組み」(PDF)
  横浜市環境創造局総合企画部温暖化対策課長
  関川朋樹氏

「イクレイ -持続可能性を目指す自治体協議会」(PDF)
  イクレイ日本事務局次長
   宇高 史昭氏

「自治体におけるグリーンエネルギーの利用拡大に向けて」(PDF)
  グリーン購入ネットワーク事務局長
   佐藤博之

  東京都環境局副参事 小原昌氏

  環境エネルギー政策研究所 能村聡(コーディネーター)

開催日時: 2007年3月23日(金) 13:30-14:45(無料)(開場13:00)

会場: 国立オリンピック記念青少年総合センター カルチャー棟 小ホール
渋谷区代々木神園町3番1号 ※交通案内

主催: 東京都
NPO法人環境エネルギー政策研究所
グリーン購入ネットワーク

後援: 環境省(予定)、経済産業省(予定)

協力: 有限責任中間法人イクレイ日本
環境首都コンテスト全国ネットワーク
環境自治体会議
全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)
グリーン電力認証機構(予定)

より詳しいイベントの案内はこちら(HTML)

主催者挨拶

 東京都環境局長 村山 寛司

<概要>

今年の冬は暖冬と言われ、ここにきて地球温暖化に対する危機意識が急速に深まっている。 暖冬が地球温暖化にダイレクトに結びついているかは別としても、IPCCの第4次報告にもあるように、その深刻さがとても明確になってきている。

東京都は昨年末に「10年後の東京」といういわば中期的な都市戦略を策定し、その中で地球温暖化対策を都政の主要課題の一つと明確に位置づけている。2020年までに都内から排出するCO2の量を2000年比で25%を絶対量として削減するという目標を決定した。これは非常に大変な課題である。これを実行するために、都内の多くの企業や都民、様々な経済主体の全面的な努力が必要となる高い目標を掲げたといえる。

かくいう東京都はその施策を引っ張っていく主体であると同時に、エネルギー事業者を除くとJR東日本と並んで都内最大級のCO2排出者でもある。エネルギーという視点から見ると、利用量の省エネに加え再生可能エネルギーをどれだけ増やしていけるかが重要だ。最大級の排出事業者であり施策の牽引役である東京都としては、この分野について頑張らなくてはいけないということで電気のグリーン購入を進めてきた。

平成16年に初めのマニュアルを作ってから、色々なノウハウを蓄積してきた。今日のセミナーのひとつの目的というのは、我々がこれまで培ってきたノウハウを多くの皆さんと共有することだ。同時に、その共有するということを通じてできるだけ多くの自治体、企業、NGOの皆さんとネットワークを作りながら、今後の日本全体の地球温暖化対策に向けた新しいムーブメントを作っていこうという高い志に基づいている。

今日お集まりの自治体の皆様方は、それぞれの地域におけるおそらく有数の排出事業者でもある。その地域における施策の牽引役でもあろうかと思う。それらの皆さんが立ち上がって進めていけば、地域の経済に非常に大きなインパクトを与えることになるだろう。同時に、その地域で頑張っている様々な方々やNGOの皆さん、志のある企業の皆さん方に非常に強い励ましや後押しになるだろうと思う。今日のセミナーが今後の我々の地球温暖化対策の推進、また波及に向けた貴重な第一歩になることを期待している。

講演

「地方自治体から始めるエネルギーのグリーン購入の可能性」(PDF)
 NPO法人環境エネルギー政策研究所所長 飯田 哲也 

<概要>

世界全体の地球温暖化に対する社会の動きがここ1年はっきりと変わってきた。ひとつはアカデミー賞を受賞したアル・ゴア主演の『不都合な真実』によるインパクトがある。これはアメリカの空気すらかなり変えていると聞いている。また、昨年の10月に出たイギリスのニコラス・スターン卿が率いる『スターン・レビュー』がある。これは、このまま放っておいた時の地球全体の経済に与えるリスクよりも予防的に動くコストの方がはるかに安い、という経済報告だ。そして、今年の2月に出たIPCCの第4次報告だ。地球温暖化は人類が放出する二酸化炭素が原因であるとほぼ断定し、しかもその影響が加速しつつあるという。これらがこの1年間立て続けに公表され、国際政治的にもはっきりと変わってきたのではないかと思う。

その対策の中で、自然エネルギーは飛躍的な成長が見込まれている。今年の 2 月に UNEP と協同して「持続可能なエネルギーファイナンス」の日本初のワークショップを主催した。その中で UNEP SEFI の事務局長の報告によると、自然エネルギーへの投資が一昨年は 5 兆 5 千億円、昨年は 8 兆円、今年は 10 兆円を越えるのではないかという勢いで、自然エネルギーが本流化しつつあるという。こういった流れを、経済的にも環境的にも社会的にも win-win-win となるような構造を日本の中でも作っていく必要がある。地球温暖化防止と地域のエネルギー政策において、やはり地方自治体、あるいは地域社会が率先して動くべきだということが本日の第一の主旨だ。

なぜ地域社会が率先して動くべきかというと、第一はもちろん環境保全だ。地球温暖化防止やクリーンな空気、排気ガス、水といったローカルな環境保全とグローバルな環境保全の直接的な効果がある。二点目は、リーダーシップやイノベーターとしての役割がある。日本においても世界においても変化は周縁から起きるという経験がある。三点目は、知識社会を作るということ。単に補助金を使って実証設備を作ってしまえばそれで終わってしまうが、新しい制度、仕組み、仕掛けを様々なパートナーシップと協働しながら作り上げていくプロセスが社会に新しいダイナミズムを与えてくれるだろう。四点目は、オープンソサエティ、特にエネルギー自治などをキーワードに、開かれた地域自立社会をつくるということ。最後に生活者主権の考え方がある。日本のエネルギー政策は産業に目線が寄りがちだが、これを生活者の視点でもう一回組み立てる必要がある。

政策イノベーションの源流とは何か。世界全体の風力発電が昨年末で 7400 万 kw 、 20% 成長した。筆頭に立つのはドイツで 2062 万k kw という状況。 2 番目にはスペイン、僅差でアメリカ、そしてインドである。ところが 1990 年以前の世界で風力発電があるのはデンマークとカルフォルニアしかなかった。デンマークは 1984 年に風力発電協同組合と電力会社と国が 10 年間にわたる固定価格の三者協定を結び、電気料金の 85% で電気を買い取るというのが源流にある。この仕組みが 1990 年にドイツに輸出され、わずか 1 ページの法律だが 1990 年 12 月に今日の源流となる固定価格制( Feed in Tariff )と言われる、電気料金の 90% で全ての自然エネルギーの買い取りを義務付けるという法律に様変わりした。そこからドイツの風力の爆発的な普及が始まり、全く同じ仕組みを 1992 年にデンマークが逆輸入した。デンマークは政権の変わる 2001 年まで順調に伸び、今年の 1 月にはデンマークの 40% は風力発電で賄われた。 1994 年にドイツ型の仕組みを輸入したスペインが今世界第二位の風車大国となっている。

もう一つの源流として、 1995 年にドイツのアーヘンという町にアーヘンモデルが導入されたことが挙げられる。これは太陽光発電の普及のために、電気料金に 1 %の地方税を乗せてこれを太陽光発電の買い取りの上乗せに使ったものだ。これが国の制度として 2000 年に電気料金の 90% という一律の価格では無く、自然エネルギーごとに決めた値段で買い取る新しい自然エネルギー法( EEG )への改正につながり、そこからドイツの太陽光の普及が始まった。さらに再生可能エネルギー国際会議が開かれた 2004 年にもう一段値上げをしてから、爆発的に普及した。昨年 90 万kW位ドイツは太陽光発電を導入したのではないかと言われている(後日 115 万 kW と判明)。毎年 5% 買い取り価格を下げるということが織り込んであり順繰りに下がっていくが、それでも普及効果があった。ドイツの爆発的な普及に至るまでは、電力会社の余剰電力購入メニューと政府の補助金によって日本が太陽光の市場を下支えしていたが、ドイツの背景には地方自治体の率先がある。

スウェーデンが昨年 6 月に、 2020 年に向けた「脱石油戦略」を出した。地球温暖化対策とピークオイル問題に対して、国内の石油消費量を 2020 年までに撤廃まではいかないが、少なくとも電気と熱を生み出す分野は 0 にし、輸送と産業分野は約半減すると、首相に諮問された。昨年 9 月に総選挙で政権が変わったが、新政権もこれを踏襲すると表明している。これも 1996 年にスウェーデン南部ベクショーという地方都市がローカルアジェンダ 21 の結果、「脱化石燃料」を宣言したことが源流にある。特に地域熱供給の脱化石燃料化、バイオ燃料化を進めた。すぐさま「チャレンジングコミュニティ」として 5 つの自治体に水平に広がり、最終的には国の政策に広がったという経緯がある。

デンマークの三者合意がドイツの固定価格に繋がり、風力発電の進化がベースとなってアーヘンモデルが生まれた。そして 2000 年に社民党と緑の党が政権に入ることによって今日のドイツの自然エネルギー法( EEG )に繋がった。ドイツでは自然エネルギー全体で 2 兆 5000 億円のマーケットとなり、 17 万人の雇用が生まれている。 CO2 は 8000 万トンがこれまでに削減できたというすさまじい効果を生んでいる。

これをまとめると、ひとつに変革は周縁の小さな試みから始まるということ。国の中央で起きるのはむしろ変革ではなくて政治的な妥協である。周縁の中での優れた試みが水平に広がっていくということが、これからの地方自治体の戦略に非常に重要だ。過去の環境政策も、東京都など様々な地方自治体の上乗せ・横だし条例が進化させてきたことをふまえておく必要がある。また、自然エネルギー政策というのは必ずしも「命令」や「排出規制」、もしくは単に「補助金」をつけるという話ではない。むしろ政策によって社会と市場の「仕組み」と「土俵」を整えるという目線が必要だ。

そのひとつの事例として、 2020 年に再生可能エネルギーを 20% 利用するという東京都の提言がある。これは 2020 年に CO2 を 25% 削減するという目標の一つのベースとなっており、 3 つの柱を持つ。第一に、需要プル型の政策展開である。出口戦略として「量」と、その量を引き受けることができる「質」の整ったマーケットを作る。これがないと世界で飛躍的に伸びているような自然エネルギー市場はなかなか実現できない。自然エネルギーで言えば世界 43 カ国、アメリカとカナダでは 21 の州が 2015 年もしくは 2020 年の再生可能エネルギー導入目標を立てている。日本も目標値はあるが非常に小さく 2014 年に 1.63% に過ぎない。また「質」の中にも哲学が必要だ。日本の場合エネルギー政策はどうしても産業側に寄りがちで、従来から規制緩和や市場原理主義ばかりが強調されてきた。しかし官から民の「民」には本来 2 つの意味がある。「民間企業」と「市民 ( パブリック ) 」だ。地方自治体、地域社会で作っていくエネルギー政策の柱と言うのはパブリックなエネルギー政策が絶対に必要な視点ではないか。

日本が唯一成功した産業政策はファクシミリといわれる。意図せずして電話回線が全く規制を受けずにそのままファクシミリに開放された。官庁や大企業が一括大量購入し、日本のファクシミリ企業が非常に強くなるという初期需要を作った。自然エネルギーもやはり初期需要を作ることよって、その産業基盤をきちんと作るべきだ。パイプに入り口から補助金で押し込むのではなく出口から吸い取ってやり、マーケットの土俵を整えることが必要である。これを市場プル、私はもう一段広げてソーシャル・プルと呼んでいる。風力発電で言えば技術開発も必要だが、系統連系するときの手続きをスムーズにするとか、あるいは洋上風力発電を行う際に出てくる漁業権の問題にきちんと道筋をつけてやる。土地がリスクとなっている部分を社会的に解きほぐしてあげることによって、出口が非常にスムーズになる。とりわけ価格を保障することは非常に重要だ。日本の場合はここに手付かずの領域が山のようにあって、出口戦略こそこれから地方自治体がやっていくべきだ。

生活者の視点からのエネルギー政策だが、常々私は日本のエネルギー政策は「エネルギー供給事業者政策」ではないかと感じる。電気・ガス・石油の業法を束ねたものが基本的にエネルギー政策となっている。長期需給見通しは、単なるモデルの話であって基本的なエネルギー政策の「構え」になっていない。電気・ガス・石油の供給側だけに着目された事業者政策の結果、需要側の生活者の視点が失われている。ドイツ・北欧型のエネルギー政策では需要側で見た電力・熱・交通・産業において、どのように賄うかあるいは抑制するか、用途ごと一つ一つにエネルギー政策の「構え」がある。これを比較すると日本はとくに熱に対するエネルギー政策に欠けている。その結果として暖房器具は(電気+ガス+石油)×(ストーブ+ファンヒーター)という 3 × 2 と種々雑多に溢れ返っている状況がある。これを、お湯を使った低温の輻射暖房にしていけば空気も非常にクリーンであるし、日本で廃れつつある太陽熱温水器の低エクセルギーでクリーンな熱も使いやすい。一朝一夕にできることではないが、このように日本の温熱政策の仕組みを変えていくこともまた重要である。温熱政策と住宅政策を統合する。いわゆる無暖房住宅が最近実用化され広がっているので、日本でも広がる必要がある。

基本的に日本は制度的、仕組み的に作らねばならないところを、むしろ技術解に逃げている。関係者を交えた仕組み解を追い求めることが必要だ。これが社会全体のコストも引き下げ、エネルギー政策の水準も高くなる。また、それぞれの人がベストを目指す部分最適ではなく、お互いに win-win なところで合意する全体最適を目指す。そして、何か派手なプロジェクトを打ち上げるのではなく、この一点を突破すれば新しい仕組みに末広がりするといった「要」や「入り口」を目指す。関係者で知恵を絞れば必ず出口は出てくるものじゃないかと感じる。グリーン電力調達がまず一点突破の入り口となる。従来、地方自治体で自然エネルギーに取り組むといった時には、自前の太陽光パネルを置いたり補助金を出して太陽光を普及させたりという方法だった。これはやってしまうとまさにそこだけで終わってしまう。地方自治体の率先行動が一点突破の鍵となり、地域全体に広がる。あるいは他の地域に広がり、国の制度、他のエネルギー種に広がる。そういう応用可能な方向が必要だ。その意味でこの電力のグリーン購入は、熱や燃料のグリーン購入に広がっていく展開の可能性がある。既に取り組んでいる自治体も少なからずいるということから、他の自治体に容易に広がっていく新しい仕組みである。さらに環境配慮契約法といった形で、国の制度にもかなり影響を与えている。これがもう少し民の世界にも次のステップとして広がっていけば、単に率先行動から行政区域内全体に広がっていくことが出来る。

グリーン電力証書の仕組みは若干分かりづらいので、行政内でも地域でも広がりにくいところがあった。しかし、グリーン電力調達は色々な形でまず初期需要を作るということができるし、また応用して新しい仕組みを作ることも出来る。例えば一昨年から東京都では都内の施設で電力会社もしくは PPS から電気を購入するときに、一定割合グリーン電力と合わせて買うという仕組みができた。どこか一箇所で財政部門を通れば、そこから他の財政施設、区、市町村、行政が購入する調達事業者も同じ水準を求めていく。さらには地域のエネルギー事業者、あるいは民間事業者全般へと繋がっていく。それに合わせて自らは 5% を 10% にしていくといった形で、面的に広げていくことが可能になってくる。

こういったことを進めていくためには地方自治体それぞれに何か核のようなものが必要だ。カルフォルニアには州エネルギー委員会があり、ずっと顔の見える人たちが継続性のある政策を行っている。デンマーク発の環境エネルギー事務所は政策、環境ベンチャー、コンサルタント、アドバイザリーといったことをやっている。こういった仕組みはヨーロッパ全域に広がっている。我々は 長野県飯田市 で、おひさま進歩エネルギーという行政と地域の NPO と事業者による協働事業といったことを進めている。こういったものが基礎自治体が進めていくプロジェクトの雛形になるのではないか。

自然エネルギー市場、広く言うと環境政策市場において規制と政策、経済のベース、金融と技術、地域社会と市民社会という 4 つの大きな枠組みに囲まれた中で、とりわけ行政の役割は非常に大きい。どういう政策、規制を行うかによって市場の構えが決まってくる。新しい政策を作っていく時には市場全体をにらんだ形で作って欲しい。

高度成長期は新しい「モノ」を作ることに皆さんはわくわくした。これからは新しい社会なり仕組みなり政策を作ることに、多くの人が生きがいややりがい、面白さを感じるだろう。そういう場を地方自治体がそれぞれ作っていただきたい。地球温暖化対策において兆候の段階で早めに動くことが必要だ。地方自治体がまず第一歩、変化を起こす。今日この場がそういった最初の出発点の一つとなることを期待している。

最後に、宮沢賢治の注文の多い料理店から話をしたい。注文の多い料理店で二人の狩人は、扉に書かれた指示に対し、途中で自分の頭で状況を考えることなく、よくわからないまま都合の良い方に解釈して従ってゆく。そして最後には危機的な状況に陥ってしまう。地球温暖化でも、さまざまな意見が出されていて、ともすれば「まだ何もしなくてよい」など自分にとって楽で都合の良い方に流されてしまいがちである。このまま流されて危機的な状況になってしまうのか、自身と周囲の状況を考え必要な行動を率先して担っていくのかが大きな分かれ道である。狩人は犬が救ってくれたが、我々の将来世代を救えるのは我々だけしかいないのだから。

講演

「東京都における電気のグリーン購入」(PDF)
別添資料 東京都グリーン電気マニュアル(PDF)
 東京都環境局副参事 小原 昌

<概要>

東京都における地球温暖化対策の取り組み状況の中で、電気のグリーン購入は極めて戦略的に重要な意味を持っている。東京都のCO2排出量は2004年度で6130万トンであった。日本全国だと工場部門の排出量が多いが、東京都では業務部門からの排出が多い。東京都の温暖化対策として重点を置いたのは、オフィスビルを中心とした業務部門ということが特徴である。

業務部門対策の中心として「地球温暖化対策計画書制度」がある。他に、オフィスビルを建てる時にどういった性能で建てるかという「建築物計画書制度」があるが、そこから派生する形で、大きいマンションを建てるときに環境性能を表示できるようにした。エネルギー消費量の多い冷蔵庫やエアコンといった家電製品には「省エネラベリング制度」を実施している。運輸部門に関しても、平成18年度に改訂した「自動車環境管理計画書制度」を設けている。自動車を30台以上持つ各事業者が自社の車を効率よく運転し、CO2排出量を減らしていくための計画書制度である。これらの個別の対策に加えて、「エネルギー環境計画書制度」がある。これら各制度を設けて対策を進めている。

「地球温暖化対策計画書制度」の基本的な考え方は、都の方で事業者が取り組むべき削減対策を具体的に提示している。各事業者が立てる計画の内容と都が提示した対策例を対比させ指導している。こういったことを通じて、各事業者が自らより高いCO2削減目標を掲げられるようにし、頑張った事業者に対して都が評価し公表するという仕組みになっている。対象事業所数は都内業務、産業部門の1%未満、1000社ほどしか対象としていないが、5年間の計画削減量でいうと75万トンにもなる。八王子の世帯数と同じ、一般家庭約25万世帯分の排出削減をここの制度で稼いでいる。指導については、まず計画案を8月末に提出してもらう。約4ヶ月かけて事業者と相談しながら都が情報提供し、事業者側が自ら実施する対策を選択して計画をつくっていくという仕組みだ。

「エネルギー環境計画書制度」とは、電力供給事業者にCO2排出係数の改善や再生可能エネルギーによって供給する電力の環境性の向上を計画的に推進してもらうための計画書である。事業者がCO2排出係数をどう減らすかという目標や、再生可能エネルギーの導入の措置なども含めて毎年提出してもらい、実績を公表している。CO2排出係数の少ない電気を選びたいと思った時に、この制度を参考にすればCO2排出係数の少ない電気を選べるといった効果もある。

東京都の率先行動として都庁全体と各部局ごとの取り組み目標を掲げ、それを環境局で取りまとめるということをしている。東京都の組織全体で都内排出量の約3.6%を占める。都内最大規模のCO2排出事業者という自覚を持って東京都が率先して温暖化対策に取り組めば、その分減るということでもある。

その具体的な5つの戦略的取り組みの一つとして、庁舎等における省エネ活動や再生可能エネルギー等の導入を推進することを掲げ、ここに今日のテーマである都施設による「電気のグリーン購入」を位置づけている。代表的な都有施設、東京都庁舎や都立広尾病院、葛西臨海水族園を「地球温暖化対策計画書制度」に基づいて評価すると、A+・AA・AAといった状況である。

電気のグリーン購入の実績としては、平成16年9月に最初の「グリーン購入マニュアル」を策定した。このマニュアルに基づいて平成17年4月から東京文化会館でグリーン電力の購入を始めた。策定当時のマニュアルの内容は、水準1・水準2と二つの水準があるが、購入の条件として最低限配慮すべき事項、つまり義務的にやらなくてはいけないのが水準1、配慮が望ましい事項、任意でやるというのが水準2となる。水準2の方に、CO2排出係数として全国平均の0.555kg-CO2/kWh以下という裾きり値を設けた。また、再生可能エネルギーの利用率に購入電力量の5%以上であることも設定した。課題は、義務ではなかったので都有施設でも取り組みが進まないということと、排出係数をもっと厳しいものにするべきではないかということだった。

2006年12月に「10年後の東京」を策定し、中期ビジョンを指し示した。その中で環境は極めて重要なポイントと位置づけられ、「カーボンマイナス東京10年プロジェクト」を展開していくことになった。環境面で世界に通用する都市モデルを作る。具体的な目標は、2020年までに2000年比でCO2排出量の25%削減である。25%という数字は、21世紀半ばには全地球で排出量を半減しなければならないという状況をふまえたバックキャスト的な目標の立て方に基づく。東京都としては、副知事を筆頭に全庁横断的に環境に取り組む組織や基金を設置し、総力を挙げて取り組んでいく。

電気のグリーン購入は一つの手法であって、その先に見据えているのは再生可能エネルギー需要の拡大である。平成19年度に先行実施として都庁舎や電力自由化対象施設におけるグリーン電力の購入を行っていく。そのために今回マニュアルの強化と整備を行った。水準2に書いてあった内容を水準1に上げ、競争により電力購入する施設では義務的にこの条件を満たす電力調達をしなければならなくなった。排出係数も0.392kg-CO2/kWhとぐっと厳しくし、環境価値の確保量を予定使用電力量の5%以上とした。環境価値というところがグリーン電力証書といったものを指す。なかなか財政当局の理解が得られない内容であるように思えるが、中身を見てみるとリーズナブルな話しかしていない。競争による調達に義務付けたというところがポイントだ。競争によってコストダウンした分を財政資金に回すのではなく、環境対策に使う。

古紙再生紙が割高だった時代でも、購入する場合どの自治体も紙代として支払っていたはず。電力は古紙のように目に見える形ではないため、そこのところの区別をつけるために作ったのがグリーン電力購入における証書の仕組みである。元々支払われるはずだった節約した分の電気代で環境価値のある電力を購入することで、経済性と環境性の両立をやっていく。都内の排出量の3.6%を占める東京都が、調達する電力の5%相当分をグリーン電力で賄うという時に、供給側がそれに応えて動いてくれることを狙っている。需要プル型政策として、他の自治体の皆さんと需要規模を更に大きくしていきたい。

制度体系としては、「東京都グリーン購入推進方針」の下に「環境に配慮した電力の調達方針」を個別に立てた。前者は古紙なども全部含まれる。更に「東京都グリーン購入ガイド」で品目ごとに分かりやすくし、電力供給についてどのようにするかというマニュアルを作った。都施設担当者が購入事務をするための極めて実務的なマニュアルとなっている。電気事業者がグリーン電気の供給に必要な手続きをとるためのマニュアルでもあり、会計制度は違うかもしれないが都以外の方々も参考になるようになっている。

地域によっては東京都ほど様々なPPSがいないかもしれない。実は東京都のグリーン電気の調達先は、電力自体の供給と環境価値の購入を別のところから調達できるように規定を設けている。電力はCO2排出係数の少ないものを購入し、その分の5%を別の事業者から環境価値として調達することもできるような形である。0.392kg-CO2/kWhという数字は、2005年実績値の都内全電源排出係数の平均値が0.374kg-CO2/kWhであるので、5%相当分をCO2排出係数0のもので調達するから、全体量の平均が0.374kg-CO2/kWhとなるようにすると0.392kg-CO2/kWh という計算になる。

環境価値の確保量の要件は二種類ある。RPS法の新エネルギー等相当量とグリーン電力認証機構に認証された環境価値だ。特に後者のグリーン電力証書を電力として調達したい。「グリーン電気購入マニュアル」は平成19年の3月に新しいものに変えたばかりで、グリーン電気購入に必要な手続きが「CO2排出係数が0.392kg-CO2/kWh未満であること」「環境価値の確保量を予定使用電力量の5%以上とすること」のそれぞれについて仕様で定めるというところがポイントとなる。都有施設の対象となるものは、電気需給契約と環境価値の確保契約の両方を契約する必要がある。この二つをセットで契約しなければならないが、契約先は別々の事業者で良い。また、環境価値の確保仕様書の支出科目をあえて光熱水費としている点も重要である。グリーン電力証書制度において「証書」を購入しているのではなく「電気」を購入している、ということだ。

企業がグリーン電力を購入した場合、会計処理をする時に電気代として処理ができない。寄付金扱いとなり、税法上損金として認められていない。自治体から始める意味がそこにある。多くの自治体と一緒に、実態としてグリーン電気は光熱水費だという問題提起を大きくしたい。都庁舎で証書を利用する時に発電委託なのだから委託料だという議論があり、買えるなら委託費でもいいかと考えてしまうが、自分たちだけで完結してはいけない。グリーン購入を突破口にして幅広い主体が一緒に取り組むことにより、再生可能エネルギーの供給事業者を励ましていかなくてはいけない。そのためにあえて光熱水費で落とす必要がある。

このマニュアルには今までの東京都の知識や知見が詰め込んである。東京都の電気需給仕様書のコスト削減のノウハウも書かれている。これを使ってグリーン電気を購入する財源を捻り出せる。グリーン電気の購入を進めるための体制整備を今後一緒にやってもらえるのであれば、専門のスタッフを出して実務上困ることがないようにノウハウの共有を行っていきたい。

平成19年度にグリーン電気を購入する予定の施設は3施設ある。そこで調達する電力をグリーン購入すると、新たにメガワットソーラー5.5基分作るのと同じ位の効果がある。 普通に電気代として処理できるならば、今以上にグリーン電気の購入はどんどん広まっていく余地がある。自治体と腕を組んだ取り組みを企業に繋がっていくようにし、全国に広げていきたい。そのために東京都が培ってきたノウハウや知識、知見は全て公開していく。活用してもらいたい。

大きな社会変革が小さなところからスタートすることは歴史上よく見られる。フランス革命のきっかけとなったのは、バスチーユ監獄の襲撃であった。あれが始まりだったと思えるスタートの日が今日この場であるように、ここから一緒に組んで運動を広げていきたいと思っている。

パネルディスカッション
 自治体におけるグリーンエネルギーの利用拡大に向けて

環境エネルギー政策研究所 能村聡(コーディネーター)

<プレゼンテーション部分>

○「佐賀県新エネルギー導入戦略的行動計画」(PDF)
 佐賀県くらし環境本部環境課長
 樋口博信氏

<概要>

現在の地方の状況は、省エネルギーが政策の中心であり、自治体も含め需要者は供給を受ける受動的な立場だ。これからの地方は、地方からアグレッシブなエネルギー政策の発信をしていかなければならないと考える。

佐賀県としては平成18年度に佐賀県新エネルギー導入戦略的行動計画を策定した。この計画には4つの重点プロジェクトが置かれている。グリーンエネルギー政策プロジェクト、農山村地域エネルギー活性化プロジェクト、九州のクロスポイント鳥栖における新エネルギーの高度利用プロジェクト、玄界ウエストコースト未来エネルギー発信プロジェクトである。今回のテーマであるグリーンエネルギー政策プロジェクトの基本施策としては、新エネルギーを導入しやすい環境づくり事業、グリーン電力証書制度を利用した太陽光発電のトップランナー事業、公共事業のグリーン化による BDF 利用拡大事業がある。

事業の具体的実施例としてまず、新エネ導入ワンストップサービスがある。手続きの一括化、相談窓口の一本化、新エネ専用の HP の開設を行い、県民に情報提供している。また、環境エネルギーファイナンス会議では、県内の金融機関に参加してもらい環境に配慮した金融を支援している。太陽エネルギー住宅推進会議では、ハウスメーカーや工務店などに参加してもらい太陽光発電などを利用した住宅の普及を図っている。さらに、グリーン電力証書制度普及セミナーを行い、証書活用の促進をしている。

佐賀県は太陽光パネルの住宅導入率が1万世帯あたり約150件であり、全国1位である。その地位の維持向上をはかるため、行動計画の目標のひとつに「めざせ1万ルーフ!」を掲げている。中期目標ではバイオマスやコージェネレーションも視野に入れ、長期目標としては新エネルギーの導入目標を平成 16 年の 1.6% から平成 32 年には 10 %としている。

太陽光発電トップランナー事業では、住民に発電委託をし、自家消費分の環境価値を証書化して県が買い取っている。電気事業者に売電した場合だいたい1 kWh 20円位だが、県では40円に設定している。上限1840 kwh 、一年間のみという条件だが、将来グリーン電力証書が市場化すればそのまま流通できる仕組みをつくる呼び水としたい。

○「新しい中野をつくる10か年計画 ~地球温暖化防止戦略~」(PDF)
 中野区区民生活部環境と暮らし担当課長
 納谷光和氏

<概要>

未来の扉を開く4つの戦略として、街の活性化、子育て、健康被害、地球温暖化防止戦略を区政の最優先課題としている。昨年度「新しい中野を作る10ヵ年計画」を策定した。中野から取り組みを発信して日本を変えていく気合を持っている。区民や事業者、地域を上げてどのように取り組むのかを考えていく。戦略のひとつの柱は自然エネルギーの利用拡大だ。

まだ導入段階であり実績は無いが、自然エネルギー発電事業、電力のグリーン購入の拡大、グリーン電力証書の普及を事業として進めていく。一つ目は区民ファンドや環境基金を組成し、地方都市との連携を図り、自然エネルギー発電事業へ投資をしていく。二つ目は東京都の中野バージョンを作っていきたい。民間事業者での拡大に力を入れていく。三つ目はグリーン電力証書を小口化し中野ブランド化させ、中野区域に広げていきたい。

グリーン電力証書はわかりにくく、購入しやすい仕組みでない。グリーン電力証書の普及に向けて、まず仲介事業者から大口で購入し、小口化して中野ブランド化させ、付加価値をつけて販売する。区としては、区民や事業者主体の事業運営ができるプラットフォームづくりをしていき、積み上げとして成果を見えるようにしたい。また購入者による中野グリーン電力クラブをつくり、ネットワーク化して普及拡大を図る。メリットやグリーン電力証書の内容がどんなものかをアピールしていくことが重要だ。

今年度構想を進めているのは、里・まち連携構想だ。テーマは地球を守る環境交流、暮らしを結ぶ食育・経済交流、人を結ぶ体験・観光交流である。地方都市と 中野区 が相互に強みを生かした win-win の事業を進めていきたい。

○「福島県新エネルギー事業の概要」(PDF)
 福島県企画調整部地域づくり領域エネルギーグループ
 畠利行氏

<概要>

福島県は電力供給県であり、古くは只見川電源開発による水力、その後、浜通りの原子力という形で、首都圏(一都四県)の使用電力の約3割を担っている。県では、生活環境部環境活動推進グループが温暖化対策や省エネ、グリーン電力事業を、企画調整部エネルギーグループが新エネルギー事業を担当している。

昨年新エネルギーの導入を促進する新しい政策に関する提言書を出した。電力自由化の流れの中でも、東北には本社を置く PPS 事業者が無く競争相手がいないため、既存の電気事業者から買うという意識が抜けない。東北、特に本県の意識は遅れている。どういう視点をもって新たな政策展開をしていくかが重要である。新エネの需要を拡大する市場プル型の政策展開、大学・ NPO などと協働したコミュニティビジネスの展開、事業者の情報公開や導入計画書の提出等で政策誘導するライトタッチ規制を活用した市場拡大、太陽熱やバイオマス熱など自然エネルギー熱利用の促進、などの視点が重要であると考えている。

○「環境エネルギー政策 横浜からの取組み」(PDF)
 横浜市環境創造局総合企画部温暖化対策課長
 関川朋樹氏

<概要>

横浜市全体の温室効果ガスの排出量は年間約2000万tであり、市役所ではその約5%にあたる約100万tを排出している。平成17年度は74万tだった。市役所は市内で温室効果ガスを多量に出す事業所である。

横浜型グリーン電力購入制度導入の背景として、ひとつに電力供給状況がここ数年変わってきていることがあげられる。本市でも一部入札制度を導入し、PPS事業者が市内の総電力使用量の11%を供給している。もうひとつは国や神奈川県などの排出量に関する先行的な取り組みである。電力のグリーン化は温室効果ガス削減という目標に向けて効果的な対策と考えられる。

制度導入にあたり、二つの大きな方向について議論があった。ひとつは電気事業者を環境配慮活動へ誘導する方向、もうひとつは既存の国の制度となるべく大きく違わない制度を導入するという方向である。この2つの考え方でこの制度をつくった。横浜市のグリーン電力制度の特徴は、環境貢献度を評価項目に取り入れたことだ。電気事業者が環境マネジメントシステムを導入しているか、新エネに関するクレジットを購入しているかを貢献度というかたちで評価することで、事業者の環境配慮行動を誘導する。排出係数が 0.6 の事業者にいきなり 0.4、0.3 にしろというのは無理な話であり、設備投資を必要とする改善は長期的な対応にならざるを得ない。環境配慮などの短期でできるものから取り組んでいただこうという趣旨である。

新エネ導入の一つとして風力発電事業に取り組んでいる。横浜における新エネルギー導入の象徴的な施設であり、PRに努めていきたい。建設や事業運営にあたり、市税をほとんど投入していない。半分を国の補助、残りの半分を、市民に市債を買っていただいた。グリーン電力証書の部分をヨコハマグリーンパートナーとして横浜市内企業にご協力いただいている。建設費、運営費には、グリーンパートナーの協賛金や電力売却収入をあてていく予定である。

○「イクレイ -持続可能性を目指す自治体協議会」(PDF)
 イクレイ日本事務局次長
 宇高 史昭氏

<概要>

世界的にもグリーン電力は注目されている。やり方によっては日本もトップランナーになれる。地球共有財の保全活動として CCP (気候変動防止都市)キャンペーンを行っている。京都議定書に参加していないアメリカやオーストラリアが自治体の中で一番参加率が多い。国の政策とは別に、その自治体にいる人のためにやらなきゃいけないことがたくさんある。自治体は独自で動いていかなければならない。世界全体の温暖化対策において都市部でどのように減らすか、緩和策が非常に注目されている。

方法は、省エネではなく積極的に再生可能エネルギーを代替していくことだ。自治体の役割としては、まず見本になっていく。率先実行し、実行計画の中でどれだけのことができるか見せていく。自治体がリードしているから信用する。このことが一番大きい政策だ。もうひとつは地域の広がりである。それぞれの地域の産業構造、排出量の特性によって変わるが、地域の中でどれだけ皆さんが取り組んでいただけるかという政策をいかに作っていくかが重要だ。

電気の消費量を減らすというより使い方を考えていかなければならない。どこから電気をとってくるか。ここでグリーン電力を増やしていくのは重要な政策になるのではないか。更に国際的に技術を提供していくべきだ。環境技術立国日本というが、自治体でやってきた技術を、特にこれから伸びようとしているインドや東南アジアの地域の人たちに提供していかなければならない。イクレイはそういうことを考えた活動をしている。

○「自治体におけるグリーンエネルギーの利用拡大に向けて」(PDF)
 グリーン購入ネットワーク事務局長
 佐藤博之

<概要>

再生紙を買うという話は20年前からあった。ターニングポイントとなったのは、滋賀県が県庁としてグリーンなものしか買わないということをきちっと方針を立て、全庁的に取り組み始めたことだった。滋賀県は地域の最大の事業者であるため、これによって供給側にマーケットができた。全国に広めるということも滋賀県の役目だと認識し、私も滋賀県の担当者と全国行脚した。滋賀県が意図して全国に玉を投げた。

96年に、全国的に水平展開し国民運動的な動きをしようということでできたのが GPN という組織だ。この流れで、グリーン購入が社会的に大変インパクトがあるということで最後にできたのが法律。エネルギーの話もこれに近い。エコマークにあたるのがグリーン証書だろう。東京都をはじめ、既にイニシアチブを取り始めたところがある。それを横に繋ぐ仕組みをつくっていき、最終的に国も動かしていけばいい。既に流れはできている。

現状、一昨年の調査では大規模な自治体は既にグリーン購入をやっている。この中で電力においてはまだまだほとんど行われていない。しかし、グリーン購入を行っている自治体が圧倒的にあるわけだから、そこに電力を入れるということは既に入り口に入っていると考えられる。企業でも上場企業や大手の非上場企業の6割が何らかの形でグリーン購入を行っている。世界的に見ても極めて珍しい先進的な状況だが、グリーン電力証書を購入している企業はまだまだ少ない。これからやっていく余地が大いにある。全国の自治体や企業がグリーン購入をやってきたことによって、あきらかに物品のグリーン市場は広がってきている。それによって価格が下がってきている。全国どこでもグリーンプロダクトが手に入るようになった。こういうことを皆さんでやればできる。東京都や一部だけでなく、皆で行動するということが市場を拡大する上では鍵である。水平的なつながりが重要だ。

GPN は環境庁が組成したが、決して官の組織ではない。民間で独自にやっている。2900団体がグリーンプロダクトを買うということで会員になっている。企業としては供給サイドとしても参加し、供給する人、買う人が一緒になったネットワークである。エネルギーでも同じようなことができればいいと思っている。

電力についてのガイドラインはまだ作っていない。 GPN が果たしてきたのは、基本的に同じ方向を向き、基準の設定や厳しさはそれぞれで良い、ということ。方向性を共有しないと供給側が大変なので、共有化することを GPN はやってきた。電力についてはおおむね方向性については共有されていると思われるから、そういう意味ではやりやすい域に入っている。ヒットからホームランにいくまでにはまだ課題があるが、電気・エネルギーまで同じグリーン購入政策という観点で広げていくことは可能であるし、 CO2削減効果からいえば不可欠だ。

同時多発的に全国でやる。初期需要をつくり、それを起爆剤として民間や個人の家庭まで広げる構造づくりをしていくべきだ。これをやれるのは自治体の他ない。モデルを共有し、成功事例を増やして一定の手法を確立していく。まだまだ百花繚乱でいろいろな手法を試していっていい。

○東京都環境局副参事 小原昌氏

<概要>

対象がまだ都の施設全部には至っていない、ということをひとつ強調させていただきたい。税金を使うためにはいろいろな手続きを経て行うということは避けられない。電気代は基本的なコストの代表例で、省エネの取り組みはコスト削減ということで比較的聞く耳を持ってもらえる。エスコ事業も同様に財政当局の理解は比較的得られやすい。しかし、グリーン電力証書の購入となると、一体グリーン電力証書とは何なのか、どれだけ購入していつまで購入するのか、必ず財政当局から問われる。また自治体の予算は決まった品目にしか使えない。

こういったことを乗り越えて今回ぜひ皆さんにお願いしたいのは、光熱水費で予算計上し、計上し続けなければいけないということだ。環境部門での温暖化対策費として光熱水費で積み、執行委任(※)で投げればいい。そこまでくればしめたものだ。ただし、その財源を環境費用として計上するということで理解を得なければならない。

東京都がまず始められたのは、電力自由化の恩恵をうまく生かしたからだ。自由化の対象となる建物でコストを下げ、下がった分をグリーン電力の購入に回すということで始まった。今日は自由化でなくても先に購入したという他の自治体での先行事例を持ち帰り、東京都でも行いたい。まだ取り組んでいないところもこういった事例を持ち帰っていただき、これが自治体の流れだといっていただければ、東京都がちょっと鼻を突き出して取り組んだ甲斐がある。あそこも鼻を突き出しているからうちも、というのが今後(グリーン電力購入予算の獲得に向けた)財政当局とのせめぎ合いになるかと想像している。

※執行委任

環境対策費用として計上したグリーン電気購入予算を支出する(予算を支出できるようにすることを予算の執行という)ときに、庁舎管理部門で他の電気代と同様に電気代として支払う場合、環境部門から庁舎管理部門あてに自分のところに計上されている予算の執行を委任するという手続きをる。これを執行委任と呼ぶ。

<ディスカッション部分>

能村:
進め方の知恵というのも含めて、取り組みの内容をもう少し詳しくお聞きしたい。

佐賀県:
グリーン電力証書の購入は、財政当局や議会の理解を得るまでに相当の時間がかかった。仕組みが分かりづらいということで、県民・住民の理解を得るため未だに行脚している状況。

また地方自治体からすると電力自由化による入札制度はとりにくく、新しい発電事業者の参入は大都会ほど容易ではない。そのため佐賀県としては証書の購入に至った。

地方の課題があるのではないか。

能村:
電力会社の選択肢が増えると良いが、やはり地方と東京とでは条件が違うのか。

福島県:
環境への意識はあるがツールが無い。自治体から住民が参加するきっかけづくりをしないと意識改革は進まない。来年度は、市町村が主体となって住民・ NPO ・地域団体等が連携し県も参画しながら地域新エネルギー導入を目指す取組みをモデル事業として行うことを考えている。

グリーン電力購入においてネックなのは寄付金扱いでなく光熱費としてみなせるかどうかという点。昨年イベントの際に証書購入を行ったときに問題となったが、けっきょく業者の委託料に上乗せとなった。県民の意識もそうだが自治体職員の意識改革も考えていかなければならない。

能村:
これから水平展開していくときに基礎自治体の理解への取り組みも必要。そのことについて、課題やこうすればいいだろうというやり方があればお聞きしたい。

中野区:
いかに継続、発展していけるかが重要だ。 中野区 のコンセプト、理念をいかに伝えていくか、将来像までいかに描いて伝えていくか、自治体よりも地域住民、事業者のプラットフォームづくりがメインだと考えている。

能村:
市民の参加というのが重要だということを本日共有していきたい。 横浜市 の住民参加型風車とグリーン電力購入はどこかで結びついてくるのか。

横浜市:
本市制度では、発電事業者の自己評価による報告書の提出が電力入札参加の前提条件となっている。導入の際、独自項目として入れた環境貢献度の評価について議論があった。評価基準については、今後の状況を見ながら変えていくこととなる。

市民参加型の風車事業としては予想以上に市民の意識が高く、債権も多くの方々に買っていただいた。このような仕組みは、環境政策全般に応用できるのではないかと感じている。

能村:
需要側の購入を引っ張っていくということがメインテーマだが、同時に仕組み・発電所・購入をうまくつなげていくということが検討されている。自治体は高くても環境価値を認めていき、住民の理解を得ることが重要である。

グリーン電力の購入を水平展開していく上でのアドバイスがあればいただきたい。

GPN:
コストがかかるという課題をクリアするための考え方として、トータルで安くなればいいだろうという考え方がある。数量を減らして購入額を抑える、リデュースしていこうという意思決定の仕方もある。

またアメリカのコピー機の取り組みで、「5年後に必ずこの仕様書で買う」という基準を定めるというものがあった。多くの自治体や事業者が新しいマーケットの存在を検討すれば、そこに向けて供給側も動ける。ヨーロッパでの共同購入の取り組みでは、同じような仕様を作って同じように働きかけ、できるだけ安く購入するというやり方もある。

できない理由はいくらでもあるが、やろうと思えば工夫する余地もいくらでもある。

能村:
グリーン電力をうまくつなげていく仕組みづくりをしていると聞いているがどういうことか。

イクレイ日本:
ヨーロッパだと削減目標を国民レベルまで下ろしてくる。それぞれ目標値(キャップ)を定めて減らし、できなければカーボンオフセットによる取引を行う。

省エネは限界が見えてくる。無い水をしぼらなくてはいけないときは、使う質を変えていく。グリーン電力を使っていくというのはそういうこと。

日本はまだキャップが定められていないが絶対に将来キャップが出てくる。そのときのために、カーボンオフセットについてみなさんが理解している方が移行しやすいのではないかと考えている。イクレイにおいて日本でもこういうことやってみようと取り組み始めているところだ。

電力会社によって電力の排出原単位が違う。それを考えた時に、自治体としてグリーン電力は選択権ができる非常にいいものである。また理解よりも行動をどんどんした方がコンセンサスを得られるだろう。事実づくりは財政当局を説得していくネタづくりであるし、財政当局と一緒に考えていけば突破口ができる。光熱費は政策評価に表れる。グリーン電力を使って環境負荷をこれだけ下げているということは住民への波及効果、意識付けに寄与するだろう。

能村:
今後、閉塞感がある日本の温暖化対策、自然エネルギーの普及の政策というものを新たなフェーズに突破していくような、お互いの交流や切磋琢磨の場を作っていけたらと考える。

最後にそういう意味での抱負を含めて発言をお願いしたい。

佐賀県:
グリーン電力は今後の地球環境を考えたときに方向性としては間違ってないだろう。地方では自治体は最大の事業者であるので我々としても努力をしていかなければならない。地方と都会では取り組み方は違うだろうが、東京都、 横浜市 の事例を参考に新たな道があるか模索をしていこうと思う。

中野区:
基礎的自治体である区では、住民を巻き込んだ取り組みにしていきたい。土地の縁・知識の縁・価値の縁、この3つの縁を大切に地域への拡大を粘り強く働きかけていこうと思う。

福島県:
福島県の浜通りにある J ビレッジというサッカーのナショナルトレーニングセンターの取締役をしている日本サッカー協会の川淵キャプテンが J リーグを立ち上げる際、なかなか理事会で意思決定ができずもめた時に「時期尚早と言っている人間は十年経っても時期尚早と言い続ける。前例が無いと言っている人間は百年たっても前例が無いと言い続けるんだ」と言った。県としてはまだ環境問題に対する意識は低いが、前例が無いということをひとつひとつ説得して、東京都などに追いつきたい。

横浜市:
データやノウハウを公開していこうと考えている。その上で色々な方々からご意見をいただけるチャンスや意見交換の場を作っていきたい。

イクレイ日本:
自治体が全員一緒に動けばそれがルールになる。排出量がここ数年上がっている。これからどれだけ減らしたかが実績となるだろう。自然エネルギーは自治体としてこれだけ減らしているという姿勢を見せることができるいいネタである。全国がやればルールになり、それによって日本の削減量が増やせるいい取っ掛かりになると思うので、ぜひみなさんと一緒に頑張っていきたい。

GPN:
グリーン購入というのは自主的にやるということがきわめて重要である。法律で枠が決まっていてやるのとは雲泥の差がある。エネルギーのところも今は茨の道だがやっていくんだということに価値があるし、また楽しいんだと思う。

東京都:
ディーゼル車対策を打ち出した時、反発を突破したのは「大変な事をやりたいんだから大変な事になるやり方じゃなきゃいけないんだ」という意志を貫いたからである。結果として一度も達成していなかった環境基準を、規制を始めて2年で達成した。ドラスティックな変化が起こっている。

ここにいる方々がみんな手を組んで始められれば、それが企業の方々にも伝播する。「グリーン購入」という分かりやすいキーワードを使って、みんなで同じ思いをそこに寄り添わせれば世の中は変わる。ここから歴史的な転換を始められると思い「バスチーユ」という比喩を使った。東京都はトップまで全部含めてこの取り組みに全力をあげる覚悟だ。そのためにみなさんと一緒になってやっていき、ここで始めた取り組みを世界に広めていきたいと思う。

能村:
企業の中でもグリーン購入の文脈の中で行っていただきたい。まだやっていない自治体とも、どんどんコミュニケーションしていきたい。それぞれの組織・機関で是非これを新しい仕組みとして採用していく方向で考え、そういう意味でのひとりひとりの取り組みに今日の場をひとつの大きな歴史的な夜明け日としてみなさんと共有したい。