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改正FIT法は地域自立エネルギーの加速化を目指すべき(意見)

改正FIT法の施行規則の改正内容への意見

【意見の要旨】

  1. FIT法は地域主導の自然エネルギー事業が加速できる改正を目指すべき
  2. 接続契約手続きを規制管理下に置き、その迅速化・透明化・負担適正化を目指すべき
  3. 自然エネルギーの優先接続・優先給電のルールと運用を確立すべき
  4. 消費者が自然エネルギーを選べる仕組みを導入すべきである
  5. バイオマス発電は燃料の持続可能性証明を強化し、熱利用を促進するコジェネを推進すべき

自然エネルギー[1]の導入量について、2012年の固定価格買取制度のスタート以来、太陽光発電を中心に導入量が増加しているが2015年度でも国内の全発電量に占める割合は14%程度と推計され、太陽光と風力を合わせてもいまだ4%程度にすぎない。平成29年度から施行される改正FIT法[2]では、経産省の公表したエネルギーミックスを前提とした自然エネルギー導入の仕組み、国民負担抑制の観点からの効率的な導入の仕組みや電力システム改革での効率的な電力取引・流通の実現などが目的になっている。環境エネルギー政策研究所(ISEP)は、この改正FIT法の施行規則の改正案のパブコメに対して以下のとおり意見を表明する。

1. FIT法は地域主導の自然エネルギー事業が加速できる改正を目指すべき

FIT制度導入後のわずか4年間で2700万kW(2016年3月末)もの太陽光発電が設置されたことは、このFIT法の大きな成果として誇るべきである。ただし、その背景でおよそ5300万kW(2016年3月末)もの太陽光発電の未稼働案件が積み上がっていることが大きな課題であることもまた、共通認識である(図1参照)。これを踏まえれば、今回の改正による認定制度の見直し(大規模な太陽光発電については期限を区切って改めて認定を取得する見直し)は、原則として支持したい。

ただし、「羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」かのごとく、見直しの方向性が違っていることを懸念する。

  • 全体として、認定手続きの有効化とともに、合理化・迅速化を目指すべき。現状の提案(第9条第3項第1号関係)は、事業者なら自ら当然実施すべき事項(事業計画、維持管理、最終処分等)に行政手続きが介入することになるため、裁量と煩雑さが増すだけとなることを懸念する。
  • 本質的な原因(手続きの瑕疵)を改善すべき。膨大な数の認定を限られた団体・人員で机上だけで実施するのではなく、設備認定を行える資格団体を増やし、よりきめ細かな調査・審査を迅速に行える認定体制を目指してはどうか。
  • 「送配電事業者が行う出力制御(出力抑制)への協力」を行うとしても、その前提として、自然エネルギーの優先給電の尊重・送配電事業者による情報開示の徹底・送配電事業者に対して会社間連系の最大限活用など出力抑制を回避する最小限に抑制する努力義務・事業の予見性を高めリスクを軽減する措置(一定の出力抑制を越えた場合の補償など)を定めることを求める。

この制度の歪みは、もともと経産省とその外郭団体における手続きの瑕疵に起因しているほか、制度設計においても非住宅用太陽光の調達価格をコスト構造に合わせて規模別にしなかったことや、電力システム改革の遅れや電力系統の整備を計画的に進めてこなかったことが大きな要因になっているが、改正FIT法の運用にあたっては、地域での自然エネルギー事業の特性や社会的な合意形成を考慮したきめ細かい事業認定制度である必要がある。

発電事業計画の認定要件(第9条第3項関係)において、規定されている要件の全てに適合するときに認定を行うものとされているが、全ての要件を満たすことを発電事業計画で厳格に求められた場合、行政手続きの煩雑さと裁量によって、事業準備段階で大幅な時間を要しかつ不透明さが増し、全体として事業リスクが増大することが懸念されるため、自然エネルギーを最大限かつ加速的に導入する目的に反することから、こうした無用な規制介入は最小限に止めるべきである。

 一方で、一部の地域で見られる大規模な太陽光発電事業の開発でのトラブル等[3]を未然に回避するため、発電事業計画の認定要件(第9条第3項関係)において、地域での合意形成プロセスをしっかりと盛り込み、積極的な情報公開と地域のステークホルダーの参画を推奨すべきである(「持続可能な社会と自然エネルギーコンセンサス」参照[4])。

図1:FIT制度による自然エネルギー発電設備の認定および導入状況(2016年3月末、移行認定を含む)

2. 接続契約手続きを規制管理下に置き、その迅速化・透明化・負担適正化を目指すべき

接続契約を送配電事業者と締結することを前提(第9条第3項第2号関係)とするならば、その接続契約手続きを行政手続きおよび規制の管理下に置いて、その手続きが迅速・透明・適正になされているかのチェック&レビューとルール化を行うべきである。

現状、その接続契約は各送配電事業者による裁量手続きに委ねられており、国が行う認定手続きとはリンクしない、事実上の「縦割り・二重規制」となっている。そのため、地域の電力系統の状況(空き容量)や送配電事業者の対応(接続可能量、工事負担金など)により接続契約が困難な地域が多く、この改正FIT法が前提とする「自然エネルギーの最大限導入」の大きな障害となっている。

また、自然エネルギーの本格的な導入に必要な「優先給電」が十分に検討されないまま原発や石炭火力など既存電源が優先されたり、オープンアクセスとして法制化されている「接続義務」の系統接続ルールが電力会社によって骨抜きされるなど、根拠が不透明な「接続可能量」や過大な「工事負担金」、既存電源や電力会社の計画を優先した「空き容量ゼロ回答」などによって実質的に接続が拒否されている。

送配電事業者を行う接続契約手続きをしっかりと規制し、持続可能性を考慮した自然エネルギーを最優先かつ最大限導入できるよう、FIT制度の運用を行うべきである。

3. 自然エネルギーの優先接続・優先給電・連系負担の適正なルールと運用を確立すべき

改正FIT法で「優先接続」条項が削除され、電気事業法の「オープンアクセス」条項に統合されたことに伴い、これまでのFIT法のもっとも根幹であった「優先接続」が実態としてなし崩しに消滅しつつあることに加えて、FIT法導入時点からの大きな課題であった自然エネルギーの「優先給電」も棚上げになったままである。

第1に、電力広域的運営推進機関(OCCTO)や電力・ガス取引等監視委員会(EGC)は、送配電事業者の中立性・公平性や卸電力取引の透明性を確保するため、実質的な役割を果たすよう、組織・人事・運営の改革を行うことが必須である。

第2に、その上で、OCCTOおよびEGCは、電力系統は公共的なインフラであるとの原則に立って、自然エネルギーの優先接続・優先給電・系統連系負担の社会化(シャロー接続原則への見直し)に関する適正な運用ルールを作成し、適用することが望まれる。

第3に、太陽光発電や風力発電に対する電力系統への「接続可能量」という考えを廃止し、自然エネルギーを優先的かつ最大限導入するための運用に改善する必要がある。とりわけ、会社間連系と揚水発電を最大限活用する運用ルールと、その追加費用を市場全体で適正に負担する考え方が必要となる。

ドイツやデンマーク等、欧州の自然エネルギー比率の高い国々の経験では、自然変動型の自然エネルギーは80%程度は、追加的な蓄電等の設備は不要であるとの経験を活かして、自然変動型の自然エネルギー比率を「接続可能量」という誤った考えで低水準に抑制している日本では、とくに気象予測や電力会社間の連系線、分散型市場などの活用する考え方の確立が必要となる。新たな卸電力市場の拡充や、電力小売全面自由化、発送電分離などの電力システム改革と密接に連携して、本格的な自然エネルギーの導入に着実に備えていくべきである。

4. 消費者が自然エネルギーを選べる仕組みを導入すべきである

改正FIT法において、買取義務者を小売電気事業者から送配電事業者に変更することは、一定の条件付きで妥当であると考える。

「一定の条件」とは、消費者が自然エネルギーを選べる仕組みの導入である。とりわけ、欧州各国で消費者が自然エネルギー電気を選べる仕組みである発電源証明制度(GoO)が整備されていない状況で、買取義務者を送配電事業者する場合は、現状、市場の一部で始まっている消費者が自然エネルギー比率を見て小売電気事業者を選ぶことが事実上、閉ざされてしまい、特に地域の資源を活かして地方活性化を目指す地産地消や産直の事業モデルを計画している小規模な事業者や新規事業者への影響が大きい。

これを回避しつつ、買取義務者を小売電気事業者から送配電事業者に変更するためには、発電源が特定できるように小売電気事業者への適切な引き渡しを可能とする制度を設けるべきである。具体的には、小売電気事業者が電源構成表示や自然エネルギーの原産地表示を行う制度の整備が必要である。

この課題は、もともとFIT法制定時に、消費者の支払うFIT負担金の中に「再エネ価値=CO2価値」が含まれていると解釈したことに由来する制度設計上の誤りに起因する。本来であれば、ここに遡って制度を見直すことで、既存のグリーン電力証書を活用した市場設計が可能となる(「自然エネルギーの選択が可能な小売全面自由化を実現すべき」参照[5])。

5. バイオマス発電は燃料の持続可能性証明を強化し、熱利用を促進するコジェネを推進すべき

バイオマス発電の事業では、未利用木材や一般木材などの木質バイオマスを燃料として安定して調達することが必要になるが、調達する木材のバイオマス証明の運用において合法性や持続可能性を考慮すべきである。特に海外から輸入する木材については、合法性や持続可能性の証明は義務化されておらず違法伐採や、海外での森林資源の乱開発などが懸念される。そのため、2016年5月に成立した「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」の厳格な運用などを通じて、輸入木材の合法性などを証明すると共に、伐採や運搬・加工段階での木質バイオマスの持続可能性に関して証明するガイドラインなども策定すべきである。

利用段階においてはエネルギー効率の低い発電や石炭混焼は避けて、限られたバイオマス資源の有効活用のために熱利用も促進しうるエネルギー効率70%以上で、事実上、コジェネに限定して推進するべきである。

[1] 委員会等の固有名詞を除いて「自然エネルギー」で統一している。

[2] 「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法等の一部を改正する法律」(平成28年6月3日公布、平成29年度4月1日施行)

[3] ISEP研究報告「メガソーラー開発に伴うトラブル事例と制度的対応策について」(平成28年3月1日) https://www.isep.or.jp/library/9165

[4] ISEP・自然エネルギー財団「持続可能な社会と自然エネルギーコンセンサス」(2015年6月26日) https://www.isep.or.jp/library/7820

[5] ISEPパブコメ「自然エネルギーの選択が可能な小売全面自由化を実現すべき」(2016年1月8日)を参照のことhttps://www.isep.or.jp/library/8900